岡山理科大−モンゴル共同調査隊が2016〜17年、モンゴル・ゴビ砂漠で発見した同一個体による4歩分の足跡化石と石垣忍教授。足跡の主は、白亜紀に生息した全長30m級の大型植物食恐竜で、巨体を支えるがに股歩きが特徴。時速2km以下で歩行したとみられる。(写真提供=岡山理科大・モンゴル科学アカデミー古生物学地質学研究所、林原・モンゴル共同調査隊、石垣忍(岡山理科大教授)
岡山理科大−モンゴル共同調査隊が2016〜17年、モンゴル・ゴビ砂漠で発見した同一個体による4歩分の足跡化石と石垣忍教授。足跡の主は、白亜紀に生息した全長30m級の大型植物食恐竜で、巨体を支えるがに股歩きが特徴。時速2km以下で歩行したとみられる。(写真提供=岡山理科大・モンゴル科学アカデミー古生物学地質学研究所、林原・モンゴル共同調査隊、石垣忍(岡山理科大教授)
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 今年4月、スコットランドでジュラ紀中期の巨大恐竜の足跡化石が50余り見つかるなど、世界中で貴重な足跡化石が相次いで発見されている。恐竜の進化や生態を解明し、恐竜展や恐竜映画にリアリズムを生み出す足跡化石の研究で何がわかるのか──。

【フォトギャラリー】恐竜の生態を解き明かす !「足跡化石」最前線

 30年前の恐竜展と今の展示とを比べると、明らかに違うことがある。それは恐竜の「尾」だ。昔はどの恐竜も「ゴジラ」のように直立し、尾を引きずる姿で復元されていた。しかし、現在は、尾が宙に浮く「やじろべえ型」。骨格化石ではわからなかった恐竜の姿を明らかにしたのが、1980年代以降注目された足跡化石研究なのだ。

 恐竜たちが尾を引きずっていたなら、足跡化石とともに尾の跡も当然残されるはず。だが、尾の跡はほとんど発見されず、定説は翻った。現在は、尾を上げて歩く姿での復元が“常識”だ。

 世界各地から集団行動を示す足跡群も見つかったが、岡山理科大・石垣忍教授によれば、「血縁集団で高度な狩りをするほどのレベルではなく、行き当たりばったりの群れで、せいぜい今の鳥レベル」だという。

 このほかにも、足裏の皮膚の凹凸、姿勢や足の運び方、肉食恐竜と植物食恐竜の群れの違いなど、足跡化石には恐竜像解明のヒントがたくさん隠されているのである。

■集団行動の証拠
全長5~6mの中型肉食恐竜の集団が時速約12kmで走ったとみられる足跡化石。解析により、約7000万年前(白亜紀)の21頭の集団のものと判明。写真はそのうち3頭の連なった足跡。個体間の左右の間隔をほぼ50cm前後に保ち、横に広がって走ったことがわかる

■凸型の足跡化石
足跡なのに盛り上がった形の化石になるのは、足跡の窪みに砂が堆積して固まったため。掘り起こすと立体的な「凸型化石」となって出土する。この足跡写真の直径は106cmで、恐竜の推定全長は約30m

■足跡でわかる体高
長さ約60cmの大型の肉食恐竜の足跡で、白亜紀のもの。足のサイズがわかれば腰までの高さはその4倍との“公式”により、この足跡の主である恐竜の腰までの高さは約240cmと、かなり大型であることがわかる

■尾を引きずらない
大西洋ができ始めた1億9000万年前(ジュラ紀)の植物食恐竜の足跡化石。モロッコで発見された。2頭の足跡は深く刻まれているにもかかわらず、左右の足跡の間に尾を引きずった跡は見られない

(文/本誌・鈴木裕也)

週刊朝日 2018年7月20日号