それでも、病院側から「安全、安楽に過ごせるよう、援助いたします」という言葉をもらったとき、Aさんは心から安心したという。
「ここなら任せられる。父を最後までみることができると思いました」
だが、そのAさんの願いは叶わなかった。
入院して1カ月半後、父親の容態が急変したのだ。
いつも通り見舞いを終えて自宅に戻ったAさんの携帯が鳴った。通知された番号は病院のものだった。
「慌てて病院に戻ると、父はもう亡くなっていました。不整脈が出て、呼吸が弱くなって止まったと、主治医から説明を受けました」
父親の死因について、Aさんが異物混入の疑惑を払しょくできない理由の一つが、主治医の言葉だった。
「『私もびっくりしました』と言うんです。当時は医師が驚くほどの急変だったのだろうと納得しましたが、今思うと、何かあったのではないか、と」
さらにAさんが驚いたのは、父親と再会した場所だ。4階にある「個室」だった。本来は入院患者が使う場所が、霊安室代わりとして使われていた。Aさんによると、実はこの日、父親を含め3人が死亡していたのだ。
「安置する場所がなかったのか、次の患者さんが入るため、ベッドを開けなければならなかったのかわかりませんが、違和感を覚えました」
個室の問題だけではない。病棟がやけに暗かったこと、デイルームに点滴のバックが無造作に置かれていたことなど、振り返ると、首をかしげることばかりだった。
「母を別の病院の療養病棟で看取ったのですが、そこと大口病院は明らかに環境が違いました」
逮捕された久保木容疑者については、Aさんは覚えていない。だが、「看護師さんは総じて優しかった」という。
一方で「疲弊している印象だった」。
「久保木容疑者が当時、どんな精神状態にあったかわかりません。ただ、言いたいのは、真実を話してほしいということ。報道では『家族への説明が面倒』と話しているようですが、それは理由の一つであって、直接的な動機とは到底思えません。関与した20人が誰なのかということについても、しっかり話してほしい」