「あれ? 握手したかな、私(笑)。でも、そのシーンのことはよく覚えています。アボジ(父)の大事なシーンだったのに、最初の撮影のときはなにか、キャストにもスタッフ側にも皆『これでいいの?』というモヤモヤ感が残っていて……。口には出さないけれど、みんな同じ気持ちだったんです。そうしたら翌日、監督自ら、『いい作品にしたいから、もう一度撮らせてください。お願いします』と。あの一言で、『一緒に頑張ろう!』という気持ちが一層強まりました」

 役者というのは、自分が演じる役のことを他の誰よりも深く考えなければならないし、強く愛さねばならない。真木さんもまた、作品に携わるたびに役に没入する。

「でも有り難いことに、私がご一緒する監督は、是枝(裕和)さんにしても、鄭監督にしても、役者にきちんと寄り添ってくださる方ばかりなんです。是枝さんに『このシーン、真木さんはどう思う?』と質問されたときは、正直、内心『私なんかが意見してもいいの?』と戸惑ったりもしましたけど(笑)」

 自分の肩書については、女優でも俳優でもなく、一貫して“役者”という言葉を使った。実際、“役の者”でないときの彼女は、「どこにでもいる普通のママ」なんだとか。

「現場に入る前は、プレッシャーもあるので、毎回憂鬱です(苦笑)。でも、いざ現場に行くと、楽しくてしょうがなくなる。芝居をする幸せを一番味わえるのが舞台です。1カ月稽古時間があって、共演者やスタッフの方とめいっぱいコミュニケーションを取り、役に向き合うための、贅沢な時間を過ごせることが」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日 2018年7月6日号