ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「防弾少年団」を取り上げる。
* * *
昨年辺りから日本でも人気急上昇中の韓流グループ『防弾少年団(略してBTS)』。40過ぎの女装オカマにはなかなか覚えづらい名前で、つい「弾丸消防団」などと有り得ない組織名を口走ってしまいがちですが、どうやら世界的にもブレイクしているらしく、先日アメリカのビルボードチャートで1位を獲得したとか。そんな防弾少年団の皆さんが、メキシコのテレビ番組で「まるでゲイクラブで働く人間みたい」と揶揄され、「差別だ!」「侮辱だ!」と騒ぎになっているようです。そりゃ欧米人に比べれば細めで小さめなアジア人が、なよなよして見えるという定説は今に始まったことではありません。事実、欧米のゲイシーンでは小柄で可愛らしいアジア男性は大変よくモテます。私も若い頃、白人男たちに「お前は日本人のくせにどうしてそんなに背が高いんだ?」とガッカリされたものです。
だとすれば、この「ゲイクラブで働く人間のようだ」という表現も、捉え様によっては褒め言葉になると思うのですが、そうはならないのが世の常です。怒り心頭のファンたちからは「防弾少年団に謝れ!」の声が上がり、“ゲイクラブ発言”をしたメキシコの番組司会者が「防弾少年団やファンに不快な想いをさせてごめんなさい」とSNS上で謝罪したとのこと。いつかこんな日が来るのではと思っていましたが、案の定。謝る(謝らせる)ならば相手が違いますよね?
悪口とは、他人の名誉や気分などを傷つける根拠ない言葉や例えを言います。そして今回の件で、「ゲイに例えることは文句なしの“悪口”に値する」という世間の共通認識が改めて露呈したわけです。別に同性愛や水商売が一般的に見下されるのは、当事者としても充分承知はしています。しかし、糾弾好きな世間が振りかざす正義感や道徳心にこそ、実は根深い差別意識が存在している。そんな典型例ではないでしょうか? 個人的には「ゲイ」と揶揄した司会者よりも、それに対して「防弾少年団に謝れ!」と憤っている人たちの方が浅はかで馬鹿だなと嫌悪感を覚えます。