いつまでも「欽ちゃん」でいられなくなってきたのも、自分としてはいやだなあって感じてたんだ。いつの間にか「大将」になっちゃった。自分らしくない、すごいニセモノが歩いている感じがした。
いろんなことに疲れちゃって、休養って言うとカッコいいけど、逃げたんだよ。僕のモットーは、勝つか逃げるか。あれ以上やっていたら、自分を嫌いになっていたかもね。
テレビには、声がかかればたまに出ることはあるけど、僕はテレビに出ることが好きなわけじゃない。番組を作るのが好きなの。
●留年じゃない延長戦なんだ
2015年4月、73歳で駒澤大学仏教学部に入学。この春から4年目の学生生活を送っている。それはやり残した「人生の忘れ物」であり、心の片隅にあった〝普通の人生〟の歩み直しなのかもしれない。
まさか自分が大学生になるとは思っていなかったけど、70歳を過ぎて「よし、入ろう!」と思って、がんばっちゃった。おやじやおふくろが生きていたら、なんて言ったかな。おふくろは「やっと真面目な道に進んでくれたのね」って喜ぶかもね。
今まさに、もう一つの人生を送っているのかもしれない。忘れてきた人生が、目の前に現実の光景としてあるんだよね。
毎日、キャンパスを歩くのが楽しくて。雨で傘がないと、知らない女子学生が「ぬれるわよ」って入れてくれる。僕が欽ちゃんだからじゃない。困っていそうな年配者に対して、そういうことをスッとできる空気がある。世間とちょっと違うんだよ。
こんな楽しいところ、4年で出ちゃったらもったいないからね。まだしばらく卒業する気はないよ。同級生には「留年したって言うな。延長戦なんだ」って言ってる。僕は単位がほしいわけじゃないから、いい成績を取れそうにないテストはパスするの。先生に失礼だからね。
でも、勉強っていいね。やればやっただけ結果がついてくる。テストにしたって、ゴールが見えているからそこに向かってがんばれる。テレビの番組作りは、何が正解で、どうがんばればいいのか、さっぱりわからないままやってきたからね。