また、アルツハイマー型認知症の脳神経細胞内で過剰に増える「タウ」というたんぱく質も通常のラットに比べて42%増加しました。
「ラットの歯肉に注射した『酪酸』は、歯周病患者の歯周ポケットで通常の10〜20倍も見つかっています。健康であればポケットにとどまっていても、歯肉の炎症などがあると組織から血管に入り込んで全身をめぐります。それが長期間つづくと脳に悪影響を与える可能性は十分にあります。たかが歯周病と侮らず、できるだけ早く治療しましょう」(落合特任教授)
■寝たままかんでも脳は活性化しない
認知症と深くかかわる口の健康。なかでも「よくかむ」ことには大きな注目が集まっています。日本歯科大学教授であり、日本咀嚼学会副理事長でもある志賀博歯科医師はこう説明します。
「咀嚼とは、単に歯で『かむ』というだけのことではありません。食べ物をかみ砕き、すりつぶし、だ液と混ぜ合わせてのみ込める状態までまとめる動作です。歯、舌、あごなどが無意識のうちに協調し合うからこそできる複雑な動きなのです」
食べるときの姿勢も意識してほしいと、志賀歯科医師は言います。
「ベッドに寝たまま上半身だけ起こして食事をしたときには、座って食べるときほど脳の血流は増えません。介護用ベッドを使っていたとしても、可能な限りいすなどに腰かけ、テーブルに向かって食べるようにしたいものです」
なにを食べたらいいのかも気になるところですが、「特別に意識しなくていい」と志賀歯科医師。
「本来、咀嚼は無意識におこなうもの。かむことに意識が向きすぎないほうが自然な食べ方を維持できます」
■認知症になっても「自分で食べる」を大切に
もしも認知症やその予備軍(軽度認知障害)であるという診断を受けた場合でも、「よくかむ」「自分で食べる」という行為は非常に大切です。高齢者の歯科医療に詳しい九州大学大学院教授の柏﨑晴彦歯科医師はこう話します。