元コンサルタントという異色の経歴、そして歴史小説の名手でありながらミステリーにも挑戦し作品の幅を広げている伊東潤さん。その伊東さんが考える、作家が安泰であるための三つの条件とは? 林真理子さんとの対談では作家の売れ方にまで話が及びました。
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林:伊東さんってもともと経営コンサルタントをなさってたんでしょう? 歴史小説と結びつかないんですけど。
伊東:確かに劇的な「キャリアチェンジ」ですね。そのテーマでの講演依頼も多いですね。コンサルタントって企業を見るわけですが、しょせん企業も人間が動かしているので、歴史小説と共通する部分は多いんです。ビジネスと歴史を両方語れる人材はあまりいませんから、講演依頼などは多いです。小説家って知らない人もいるぐらいなんですよ(笑)。
林:日本のビジネスマンって、本当に歴史が好きですもんね。取材をするときに、こちらに知名度があるとラクじゃないですか? まったく知らない人よりも、いろいろ協力してもらえますよね。
伊東:してもらえますね。僕は最初は出版社への持ち込みでしたから、プロ野球で言えばテスト生から這い上がったようなものです。そういう立場からすると、今は恵まれています。でも、(ポケットから本を取り出しながら)林さんのこの『野心のすすめ』を3、4年ぶりに読み返してみて、「山の頂はさらに上にあるので、それを目指していかなきゃいけない」ということを、あらためて自分自身に言い聞かせました。
林:まあ、ありがとうございます。上がっていくともっと上が見えてくるし、そうかといって下にはおりたくないから、登り始めるとすごくつらいですよね。特に作家って、知名度があると、ラクしようと思えばできるじゃないですか。講演やエッセーで稼げちゃいますし。
伊東:ラクできますよね。でも、したらダメですよね。自分の背中を新人や若者が見ているので、自分自身がいちばんのイバラの道を行かなければいけないなと……。
林:おー、カッコイイ。