「Good Luck Baby」ではファンク・スタイルのベースがフィーチャーされ、ポップなメロディーによる「エビバディ」も、シンセ・ベースを効果的に起用したリズムのアンサンブルが面白い。「問題ない」は軽快でリズミカルなテクノ・ディスコ風のサウンドで、80年代のニュー・ウェイヴ的センスも織り込まれている。リズミカルなブギ・ベースの曲でビートルズ風のメロディーが顔をのぞかせる「12時55分」にもテクノ風のテイストが加味されている。

 鈴木雅之への提供曲をセルフ・カヴァーした「純愛」はダンサブルなエレ・ポップ風。タム・タムのフィルのベタなフレーズやリズムのアンサンブルが一興だ。

 そうした曲の合間に収まった「世界中の海の水」はしっとりとしたバラードだ。マシーンによるシンプルなリズムやギター演奏が、恋人への追憶を歌う斉藤の歌を際立たせている。

「始まりのサンセット」は、サイケ時代のビートルズやELOを思わせるシンセサイザーによるシンフォニックなサウンド展開による。夕陽が落ちていく光景が思い浮かぶスケール感のある曲だ。

 アルバムを締めくくるのはギター演奏によるインストゥルメンタルの「Good Night Story」で、ジャジーなギター演奏を聴かせる。これまでの斉藤にはなかった一面を見せている。

 最後のインストを除き、リード・ギターはほぼ皆無。ドラム・マシーンやシンセサイザーによる新たなサウンド展開に取り組んだ冒険心に富む意欲作である。圧倒的な説得力を放ちながらも、気負いはなく、遊び心もうかがえる。

 新しいオモチャを手に入れ、楽しみながら音作りや作曲に取り組む斉藤の喜々とした表情が思い浮かぶ。(音楽評論家・小倉エージ)

●『Toys Blood Music』=初回限定盤CD2枚組(ビクター VIZL―1800)
●同=通常盤(同 VICL―65100)
●同=限定生産アナログ盤(同 VIJL―60400)

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