尾上所長は、そんな賃金データの「宝の山」と30年以上、関わり続けている。毎年、結果をもとにさまざまな分析を行い、データは労働組合の「親玉」である「連合」に提供されている。
「賃金センサスでやっかいなのは、詳しい業種別では『30~34歳』『35~39歳』といったように、5歳5年階層キザミの金額しか発表されていないところにあります。私は、回帰分析という独自の手法を使って、そのデータから1歳1年キザミの賃金を推計し、業種ごとに『賃金カーブ』を作っています」
賃金カーブとは、縦軸に賃金を、横軸に年齢を取って作ったグラフのこと。
生涯賃金は、すべて賃金センサスの数字を使って、次のようにして割り出した。賃金カーブから、すべての「月例の所定内賃金」を足し合わせて「生涯所定内賃金」(【1】)を求める。年間賞与も、同じく生涯にわたって足し合わせて「生涯賞与」(【2】)を出し、残業代にあたる超過勤務手当も同様にして「生涯超勤手当」(【3】)を求める。【1】と【2】と【3】を足せば、生涯賃金の推計値が出るわけだ。
主要40業種の大卒の男性・女性それぞれについて、推計値を出してもらった。いわば、これこそ「日本の生涯賃金」の全貌ともいえるものだ。尾上所長にデータ解説を、『一番わかりやすい日本経済入門』の著書もある、先の久留米大学の塚崎教授に適宜、解説をお願いした。
まずは全体状況である。
全産業の平均値だが、平均生涯賃金は男性「約2億9400万円」、女性「約2億4400万円」だった。
企業規模別では、男女とも規模が大きくなるほど、生涯賃金も高くなっている。男性で見ると、1千人以上の大企業は「約3億2800万円」。10~99人規模の小企業の「約2億2300万円」と比べると、1.5倍弱だ。同じく女性は約1.3倍。塚崎教授が言う。
「思っていたより差が小さくて、ビックリしました。一流大企業と中小零細企業との間では、ものすごく違うイメージがありますが、実際は5割も違わないのですから」