ふたりには、日本人の感情表現やこだわりが持つ『振り幅』を見せてもらった気がします。『頑なにこだわらない(宇野)』は、『命を懸けてこだわる(羽生)』と同じくらいの強さを発揮することがある。なかなか立証できない真実を知ることができました。宇野くんに関しては、五輪前から「ジャンプ失敗しましたけど大丈夫です。安心しました」的な『ノープロブレム精神』がずっと気になってはいました。それが彼の本能なのか、もしくは意識的に律しているものなのかは計り知れませんが、いずれにしても天才的な性(さが)の持ち主であることは確かです。お決まりの感動インタビューシーンで、突然ヘリウムガスを吸ったような声で咳き込むところなど、前のめりになる世間の感情に肩透かしを食らわせて楽しんでいるようにも見えてゾクゾクします。

 これはこれで私の勝手な個人的憶測に過ぎませんが、世間の文脈に「乗っかる必要なんてないでしょ?」という頑なさからとにかく目が離せないのです。「誰にメダルを掛けてあげたい?」という質問にも、自ら率先するように「特に大事に扱おうとは思っていないので」と、通り一遍な世間の感情を見越した答えをするところなど、ただ『天然』とか『大物』という言葉では片付けられない強い『意思』を感じます。羽生くんが演歌の極みならば、宇野くんはロックです! 羽生くんに頭を撫でられた瞬間、ブチ切れやしないかそれはドキドキしました。

週刊朝日 2018年3月9日号

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