ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、平昌五輪の男子フィギュアスケートを取り上げる。
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突然ですが『2位』と『2番手』は似て非なるものです。『2位』は順位、『2番手』は立場を表します。あらゆる世界に『2番手』は存在します。しかし必ずしも彼らが『2位』になれるとは限りません。1番手が1位になるより、2番手が2位を獲ることの方が遥かに難しい。それに気付いていない人は意外と多いのではないでしょうか。『1番手に肉薄する実力』はもちろんのこと、『1番手と共存する覚悟や柔軟さ』も2番手には求められます。「2番がちょうどいい」などと甘んじても「どうせ1番にはなれないし」と諦めてもダメ。上を意識し過ぎても自分を見失ってしまう。それでも自動的に比較され、差し引きされてしまう宿命。そう、2番手は忙しいのです。
よく『ワンツーフィニッシュ』と言いますが、そうは問屋が卸さないのが世の常です。だからこそ此度のオリンピック男子フィギュアにおける羽生結弦くんと宇野昌磨くんの『金・銀』は、まさに理想を超えた究極の結末でした。「どちらが勝ってもおかしくない」とか「運はどちらに味方する?」的なものとも違い、ふたりともが『観る側の期待と想像』を上回るパフォーマンスを、それぞれの流儀でまっとうしたからこそ見られた景色だったと思います。直前の大怪我、ぶっつけ本番という絶体絶命の逆境を、ベストコンディションの一要素にしてしまう羽生くんの凄まじさ。そして、そのとてつもなく強大なストーリーの傍らに身を置きながらも、粛々と自分の勝負ができてしまう宇野くんの図太さ。どちらも観ていて怖くなるぐらいでしたが、特にあの劇的かつ絶対的な羽生くんの演技と点数を目の当たりにした状況で、確実に2位の座を射止めてしまえる宇野昌磨という男はいったい何なのか?総合的な『強さ』でいったら、今大会で最も強かったのは彼なのではないか?