溝端:ずっと黙っていたんですが、最後はしびれを切らしたように「それはどうもすいませんでした」と。それで僕も「お互い気をつけましょうね」と言って寝たんです。

林:すごい……。今どきそんな青年がいるとは。

溝端:今考えると、黙ってしまってあげればよかったんですけどね。でも、なんか変な正義感があってダメなんですよ。社会不適合者ですね(笑)。

林:たとえば仕事場に礼儀を知らない後輩とかいたら、言っちゃいます?

溝端:後輩だと、「いつか気づいてくれれば」と思って、最初は言わないかもしれません。反対に、先輩とかには言っちゃいますね。「それ、ちょっとおかしくないですか」とか。

林:意外です。すごく穏やかで、何かあってもグッと我慢しちゃうタイプに見えましたよ。

溝端:我慢もしないといけないですね。そんな感じなので、僕がテレビに出て「穏やかそう」とか言われるのが、地元の人からするとすごく不思議らしいです。「穏やかとはほど遠い人間なのに」って(笑)。

林:でもこのご活躍、ご家族の皆さんはすごく喜んでいるでしょう?

溝端:それはそうですね。芸能界とは縁のない、安定志向の家庭だったので。5年前、蜷川(幸雄)さんの「ムサシ」でシンガポール公演をやったときに、両親を招待したんです。両親の新婚旅行も、シンガポールだったので。

林:親孝行じゃないですか。

溝端:それぐらいしかできないんですけど、よかったなと思いますね。

林:蜷川さんは、溝端さんのことをどんなふうにおっしゃってたんですか。

溝端:蜷川さんにはみんな怒られるんですけど、僕も相当怒られました。蜷川さんが亡くなる半年くらい前、シェイクスピアの「ヴェローナの二紳士」という喜劇で女形をやらせてもらったんですが、そのときもすごかったです。蜷川さんの舞台って、稽古の初日からセットも衣装もメイクもほぼ百%の状態で始まるんですよ。だからセリフを(頭に)入れておくのはあたりまえなんですけど、「メイク取れ」「かつら取れ」「衣装取れ」とか言われて、1週間後には僕、ただのジャージーでやらされていて、「その状態で女じゃないと意味ねえんだ! おろすぞ、こいつ!」。

次のページ