美旋律曲揃い、北欧からのクールなサウンド
What Took You So Long / Espen Eriksen (Rune Grammofon)
昨年12月に取材した《ペナン・アイランド・ジャズ・フェスティヴァル》で、最も印象的だったアーティストがエスペン・エリクセン・トリオだ。
エリクセン(1974~)は元々ノルウェー国営放送の番組出演者として、同国で知られるプロデューサー/ジャーナリスト。ブッゲ・ヴェッセルトフトと交流を持ち、ピアニスト/作・編曲家としてクリスティーナ・ビヨルダール(vo)のワールド・デビュー作『ブライター・デイズ』(2008年)をバックアップしている。エリクセンは2010年にトリオ名義のデビュー作『ユー・ハッド・ミー・アット・グッドバイ』をリリースした。ベースのラーシュ・トルムド・イェンセット(1978~)はオスロ大学で音楽を学んだ後、7年間のコペンハーゲン生活を経て2007年から母国を拠点に活動。ドラムスのアンドレアス・ビー(1975~)はオスロのノルウェー音楽院を卒業後プロ入りし、ジャズモブ、ヨン・エベルソン、ニルス・ペッター・モルヴェルら母国のトップ・ミュージシャンと共演。ジョシュア・レッドマン、ジョン・テイラーら英米の著名人からも重用されており、ブッゲ・ヴェッセルトフトのグループによる4月の来日公演でもその実力を証明した。
冒頭の続きを話そう。夜の帳が落ち始めたマレーシアの野外ステージ。2組目にエリクセン・トリオが登場し、演奏が始まる。ぼくはまずステージ間近で写真を撮りながら、彼ら3人の様子を体感し、その後、芝生の上に座って聴き続けた。現在のノルウェー産若手ピアノ・トリオのトレンドを体現するクールなサウンドが、東南アジアの野外ステージで展開されている状況に対して、不思議なことに何の違和感も覚えなかった。むしろインドア向きの音楽を、このような環境で聴ける非日常的な体験の興趣を味わったのである。
エリクセン・トリオの第2弾となる本作は、2曲を除きすべてエリクセンのオリジナル。それらが美旋律曲揃いであることを特筆したい。メランコリックな#1、ミディアムスローのフォーキーな#2、ビー得意のブラッシュワークが緊張感を高める#3等、シンプルな曲調ながら印象的なトラックが続く。ピアノ&ベースのユニゾンがe.s.t.を想起させる#8は、後半にベース・ソロが躍動して、トリオの別の魅力を表現。曲名の由来を想像するのも一興の#9、そしてしっとりとしたピアノ独奏のバラード#10で締めくくる。スーパーサイレントに代表される革新的ミュージシャンが所属し、ジャズおよび周辺音楽を扱う同国の最先端を行くポジションを築いてきたRune Grammofonが、そのイメージに変化をもたらしたイン・ザ・カントリーに続く、レーベル新展開のトリオである。
【収録曲一覧】
1. All Good Things
2. Third Stop
3. On The Sea
4. Fall
5. We Don’t Need Another Hero
6. Passing By
7. Could It Be Magic
8. Dusk Of Dawn
9. Komeda
10. Oslo
エスペン・エリクセン:Espen Eriksen(p)
ラーシュ・トルムド・イェンセット:Lars Tormod Jenset(b)
アンドレアス・ビー:Andreas Bye(ds)
2012年作品