ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動するミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
ミッツ・マングローブ「21世紀型トレンディー俳優・濱田岳の総合商社力」(※写真はイメージ)ミッツ・マングローブ「21世紀型トレンディー俳優・濱田岳の総合商社力」(※写真はイメージ)
 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は「俳優・濱田岳」を取り上げる。

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 こうも寒くなってくると、仕事以外は家に籠もる日が多くなってきます。熱々のピザを出前してもらい、もっぱら『80,sごっこ』に勤しむのが冬の楽しみです。例えば家の中を『1988年冬』に設定したら、かける音楽もそれ以前のものに限定し、テレビ画面には当時のドラマや歌番組のビデオを延々流す。できれば携帯もリンリン電話型のイヤホンを接続してムードを高めます。

 今夜ももれなく昭和63年冬モードの我が家。三上博史主演のドラマ『君が嘘をついた』(出演:麻生祐未・鈴木保奈美・工藤静香ほか)を横目にこの原稿を書いているわけですが、先ほどリモコンを押し間違えてしまった際、現在のテレビ画面に映っていたのが濱田岳さんでした。超トレンディーな三上博史から『21世紀のリアリティ王・濱田岳』へのお茶の間タイムトリップは、なかなか愕然とさせられます。三上博史がバブル時代における象徴的俳優であったことは紛れもない事実ですが、一方で2010年代後半のそれはというと、案外『濱田岳』なんじゃないかという点での『愕然』です。今のテレビドラマは、主役のイケメン俳優や美人女優よりも、むしろ『濱田岳的』な役者たちの存在感と技巧で出来ている気がします。例えばムロツヨシさん。例えば浅利陽介さん。皆さん有無を言わせぬ上手さと器用さ、そして時代に弄ばれない『非トレンディー的』な立ち位置が重宝され、結果それが今の『トレンド』になっているという点で、『三上博史=濱田岳』の式が成立するわけです。

 濱田岳さんを観ていると、かつてテレビ画面の中にあった『ヒヤヒヤ感』をふと忘れてしまうことがあります。それぐらい安定した精神状態で画面と対峙できるのです。ツッコミたくなるような拙さや危うさはもちろん、わざとらしさも暑苦しさもいっさいありません。まるで安心と信頼と実績を一手に担う総合商社のような人です。

 
 ふと想像してしまう時があります。『釣りバカ日誌』だけでなく、『金八先生』も『北の国から』も『寅さん』も、ひょっとすれば『古畑任三郎』も、すべて濱田岳さんが受け継ぐのではないかと。いっそ『機動戦士ガンダム』の実写版もアムロ役・濱田岳で行けそうな気が……。そして仮にそうなったとしても、驚くほど違和感なく受け入れてしまいそうです。この濱田岳的『受け入れられ力』こそ、今の世知辛い時代を生き抜くために必要な最大の強みなのかもしれません。ひとりでも多くに拒絶されない力。

 こうなったら濱田岳さんには行けるところまで行って頂きたいものです。ヒヤヒヤしたい時は、いつものように『80,sごっこ』をして三上博史や浅野温子を観られれば私は大丈夫なので。とりあえず月9は濱田岳主演で名作伝承シリーズをやってみてはどうでしょうか? 『東京ラブストーリー』も『101回目のプロポーズ』も『ひとつ屋根の下』も『ロンバケ』も、90年代以降の作品であればどれもすんなりハマると思います。濱田岳&満島ひかりコンビの『101回目のプロポーズ』なんて、リアル過ぎて全然笑えなさそうです。

 ちなみに『教師びんびん物語』だけは、トシちゃん演じる徳川龍之介役は『みやぞん』でお願いします。もちろん主題歌『抱きしめてTONIGHT』のカバーもセットで。

週刊朝日 2017年12月15日号