田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
田原総一朗「トランプの『エルサレム首都宣言』に困惑する安倍首相」(※写真はイメージ)
米・トランプ大統領による突然の「エルサレム首都」発言。ジャーナリストの田原総一朗氏はその背景と今後の世界情勢について、こう読み解く。
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危険極まりない表明だ。トランプ米大統領が6日午後(日本時間7日未明)にエルサレムをイスラエルの首都と承認し、テルアビブにある米大使館をエルサレムに移転する手続きを始めることを明らかにした。
なぜいま、アラブとイスラエルの歴史的対立を際立たせるようなことをするのか。ユダヤ、キリスト、イスラムの3宗教の聖地があるエルサレムは、1947年の国連総会パレスチナ分割決議で「国際管理地」とされた。80年代にイスラエルがエルサレムを「不可分の首都」としたときも、国連安保理はその宣言を無効として撤回を求める決議を採択した。90年代から米国を主な仲介役として始まった中東和平交渉では、エルサレムの最終的地位を当事者の協議によって決めることになった。
実は、米国では95年に米大使館の移転法案が可決されたのだが、歴代大統領は安全保障上の理由で移転を先送りにしてきたのだ。それは同盟国イスラエルへの配慮と米国の国際的責任を両立させる知恵とも言えた。それを、トランプ氏は一変させたわけだ。
トランプ氏の意思決定の背景には、娘婿でユダヤ教徒のクシュナー氏の存在があるのではないかという見方もあるが、実はクシュナー氏は大使館移転に慎重で、マティス国防長官、ティラーソン国務長官など政府内部にも慎重論が多かったようだ。だが、昨年の大統領選でトランプ氏を強く支持したのはキリスト教右派や親イスラエル勢力で、現在、内政面でも外交面でも主要な成果を上げられていないトランプ氏の、支持者に向けた得点稼ぎだという見方が強い。
当然ながら、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、「米国の決議は和平プロセスを損なうだけでなく、地域を不安定化させ、戦争へと導く行為だ」と、トランプ大統領の表明を激しく非難し、現に大規模なデモが起きている。
それにしても、北朝鮮との緊張状態がいつ火を噴いてもおかしくなく、しかもロシアゲート問題ではトランプ氏自身にも嫌疑が及びそうな中で、なぜ、このような世界中から拒否反応を受けるような決断をしてしまったのか。米国を含む世界各国で、テロ事件も起きるかもしれない。
ところで、世界中からの拒否反応でトランプ氏は北朝鮮問題にエネルギーを注ぐことができず武力行使はしないだろう、という見方もあるが、逆に、トランプ氏は追いつめられて武力行使に走るのではないか、という見方も強まっている。
トランプ氏の言動に困惑しきっているのは日本政府、安倍首相である。日本は一貫して中東和平を求めていて、中東諸国が強く反発する「首都エルサレム」に賛成するわけにはいかない。大統領の表明は誤っている、と国民のほとんどは考えているが、日本政府としては英国やフランスのようにハッキリ「反対」と言うことはできないのではないか。
中東各国とも友好関係を続けながら、トランプ氏の信頼を失いたくはない。難しい状況だが、とにかく安倍首相なり河野太郎外相なりが、できるだけ早く中東各国を回り、日本が中東和平を心から求めていることを、首脳たちに説くべきである。
※週刊朝日 2017年12月22日号