ディデュモイ・ドリームズ/シゼル・アンドレセン&シュティアン・ヴェスターヒュス
ディデュモイ・ドリームズ/シゼル・アンドレセン&シュティアン・ヴェスターヒュス
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ヴォーカル&ギター・デュオの極北
Didymoi Dreams / Sidsel Endresen & Stian Westerhus (Rune Grammofon)

 前々回のファーマーズ・マーケットに続き、7月上旬に取材をしてきたノルウェーの《コングスベルク・ジャズ・フェスティヴァル》での収穫を、もう1つご紹介したい。

 各国から招待された我々関係者が宿泊したのは、フェスティヴァル会場からバスで30分の森林地帯にあるホテルで、部屋の中にはテレビも冷蔵庫もない静かなペンションのような場所。フェス2日目の午前に、そこで関係者のためのセミナーが行われた。BBCのパーソナリティとしても著名なフィオナ・トーキングトンが、ノルウェーの若手トップ・ギタリスト、シュティアン・ヴェスターヒュス(1979~)にインタヴューするというもの。フィオナからは2年前にベルゲンのフェスで会った時、「今、シュティアンがイチオシよ」と聞いていて、確かに初めて生体験したソロ・パフォーマンスは衝撃的だった。セミナーではシュティアンがロンドンで修行していた時期の、興味深いエピソードも飛び出し、過激な音楽性とは対極の柔和な人柄にも触れることができた。そこで本人から受け取ったのが、完成したばかりの本作というわけである。

 そしてその日の夜、シュティアンは新作と同じくシゼル・アンドレセンとのデュオで、フェスに出演。シゼルはブッゲ・ヴェッセルトフト(p,key)やホーコン・コーンスタ(ts)とのデュオ・プロジェクトの実績がある、ノルウェーの前衛派歌手のパイオニアと呼べる存在だ。このステージでもハスキーで力強いヴォイス、ノルウェー語歌唱や語りで、ギターと激しく拮抗。シュティアンはいつものように様々なアタッチメントを駆使しながら、自分の持ち味とシゼルのヴォイスとの協調関係を構築したのが印象的であった。シュティアンが大先輩のシゼルをリスペクトする気持ちがパフォーマンスから伝わってきて、それも好感を生んだと言えよう。

 本作は約1年前にベルゲンの《ナットジャズ》で収録されたライヴ・アルバムだ。未確認生物を思わせるヴォイスと、それを真似たようなギターが共鳴する#1でスタート。シゼルが器楽的ヴォイスを発すれば、シュティアンがそれに応じてスリリングな瞬間を現出する#5が前半のハイライト。#6が終わったところで拍手が起こり、この連続演奏のスタイルは、ぼくが観た《コングスベルク》でも同様だった。数分単位の楽曲を続けることによって、1つの物語を形作ることも2人は企図したのだろう。後半ではシゼルが声を使い分けて1人複数役を演じる驚異的なパフォーマンスを聴かせ、シュティアンが持てる技を総動員する#7が最高の見せ場となっている。ヴォーカル&ギター・デュオの極北がここに。

【収録曲一覧】
1. The Rustle Of A Long Black Skirt
2. Barkis Is Willing
3. Drawing An Arc
4. Limbs Leaves And Snowmobiles
5. Wayward Ho
6. Hedgehumming
7. Immaculate Heart
8. Wooing The Oracle
9. Hector
10. Dreamwork
11. The Law Of Oh

シゼル・アンドレセン:Sidsel Endresen(vo)(allmusic.comへリンクします)
シュティアン・ヴェスターヒュス:Stian Westerhus(g)

2011年5月ノルウェー、ベルゲン録音