会合では、名刺を配っても受け取ってもらえないことがしばしば。お酒をついだ紙コップを握りつぶされたことも。ファッションを細かくチェックされるので、自分の趣味だった服は封印。不快な思いや窮屈な思いをすることもある。
でも、活動を通じて色々な人と話せるのは、想像していたよりずっと楽しい。
「正直言って、『地盤を継いでほしい』という親の思いをくんで立候補を決意した面が、当初はありました。でも、今は地元の人の意見を丁寧に聞いて、政治に生かすことが楽しみだと感じています」
関西の大学に通う中山智貴さん(21)は現在、就職活動中の身。だが、被選挙権が得られる年齢になれば、人口約1万5千人の地元の町議選に立候補しようと、ひそかに考えている。
きっかけの一つは、韓国人留学生との会話。彼は兵役から逆算して、将来の人生プランを明確に描いていた。レジャーランド化した大学で学生生活を謳歌(おうか)し、安定を求めて公務員をめざす同級生たちとは覚悟が違った。
たまたま当時、学生に議員インターンを案内する団体にかかわり、そこで会った若手政治家の姿に憧れた。それも手伝って、将来の夢が政治家になった。
オーストリアの30代の首相候補や、フランスのマクロン大統領が39歳の若さで就任したニュースを見ては、「自分も早く活躍したい」と考えている。
でも、なぜ町議なのか?
「父が地元の町議として活躍していた、良いイメージがあります。それに、自分の通っていた小学校が最近、統廃合でなくなりました。まずは生まれ育った地域を元気にしたいんです。ただ、地元町議の手取りは14万円程度。立候補までに起業するなど独立して生きていけるようにしないと、選挙に出るのは難しいと考えています」
思いは大切だが、それだけで生きていくことも難しい。アラサー男女は理想と現実のなかで揺れつつ、政治家への道を志している。
2015年の統一地方選で30代以下の候補者の割合は、全体の約1割。議員をめざす若者は増える傾向にあるが、まだ少数派だ。
選挙用品ドットコム代表で、『28歳で政治家になる方法』の著書がある田村りょうさんは解説する。