
てんかん患者の約3分の1は高齢者が占めている。発作時にけいれんがなく、ボーッとした状態が時には数日続くため認知症に間違われやすい。症状は薬でほぼコントロールできるので、早く見つけて治療を受けることが大事だ。
てんかんは、「子ども」が突然意識をなくして全身が「けいれん」する珍しい病気──。こんなイメージを持っていないだろうか。
「てんかんは誰もがかかる可能性のある病気で、症状も一様ではありません。子どもの病気とか、発作=けいれんといった先入観は捨ててください」
と、新宿神経クリニック院長の渡辺雅子医師は言う。
日本のてんかん患者は約100万人、その3分の1が高齢者といわれる。男女差はない。65歳以上の有病率は1~2%とされており、決して珍しい病気ではない。
患者には、小児期や成人期に発症し、それが継続している人もいれば、「高齢発症てんかん」の人もいる。てんかんの発症率は乳幼児で高く、10代になると低下するが、50代後半から上昇に転じる。これを高齢発症てんかんという。
高齢発症てんかんはさらに、原因となる病気がある「症候性てんかん」と、原因不明の「潜因性(せんいんせい)てんかん」に分けられる。3分の1は後者だ。前者の原因疾患としては、脳血管障害を筆頭に、認知症などの神経変性疾患、頭部外傷、脳腫瘍などが多い。ここでは潜因性の高齢発症てんかんを中心に取り上げる。
てんかんとは、大脳の神経細胞が過剰に興奮するために神経ネットワークに障害が起こり、発作を繰り返す脳の慢性疾患だ。
発作には、神経細胞の興奮が大脳の一部に見られる「部分発作」と、大脳全体が興奮している「全般発作」がある。高齢発症てんかんの多くは部分発作で、なかでも意識障害を伴う「複雑部分発作」が多い。
「突然意識をなくすので、危険な状況になりやすい。料理中なら熱さを感じないのでやけどすることがありますし、自動車運転中なら事故の原因になります」
と話すのは、朝霞台中央総合病院脳卒中・てんかんセンター・センター長の久保田有一医師。「だからこそ、早く高齢発症てんかんに気づいて治療を受けてほしい」と2人の医師は声をそろえて強調する。