オリジナルの新曲に加え、70年代にレオンが生んだ「マスカレード」「ア・ソング・フォー・ユー」「ハミングバード」をセルフ・カバー。前2曲はもともとスタンダード的な趣のもので、ほぼオリジナルを踏襲。「ハミングバード」は大幅にアレンジを改めている。


 スタンダード的な曲を集めた結果、ラヴ・ソングが中心の構成だ。そんな中、前出の表題曲「オン・ア・ディスタント・ショア」と、人生模様をテーマにした「オン・ザ・ウォーターフロント」は趣が異なっていて興味深い。

 とりわけ表題曲の訳詞には驚いた。〝哀れな心臓が遠くの山の上の太鼓のように響いている〟と歌い出し、〝死神がドアを叩き 僕は遠い浜辺で道に迷っている〟〝誰かの葬儀がここで始まろうとしている 僕の番なのかもしれない〟と続き、〝僕は彼岸で途方にくれている〟と結ばれている。

 レオンは死の訪れを感じ、この曲を書いたのに違いない。決して悲痛な叫びではなく、淡々とした歌いぶりだ。ゴージャスなオーケストレーション、ユーモラスなドゥ・ワップ・コーラスも聞かれる。だが、歌詞を読むと悲痛な思いにかられる。

 レオン・ラッセルは念願だったオリジナル作によるロマンチックなスタンダード・アルバムを完成して夢を叶えた。そして、それは彼の最後のアルバムとなった。(音楽評論家・小倉エージ)

●『ラスト・レコーディング~彼方の岸辺で』(ソニー・ミュージックエンタテインメント SICX93)

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