Magico-Carta De Amor
Magico-Carta De Amor写真・図版(1枚目)| 『マジコ:カルタ・デ・アモール/チャーリー・ヘイデン、ヤン・ガルバレク、エグベルト・ジスモンチ』
この記事の写真をすべて見る

ECMの巨匠たちの30年前の未発表ライヴ音源
Magico: Carta de Amor / Jan Garbarek/Egberto Gismonti/Charlie Haden (ECM)

 今年リリースされたテリエ・リピダル『オデッセイ』、キース・ジャレット『スリーパー』、そして本作のECM3タイトルの共通点をご存知だろうか。

 答えはいずれも未発表音源であることだ。順に76年、79年、81年と、70年代後半から80年代初頭の6年間に集中しているのも特徴。2009年に創立40周年の節目を迎え、膨大なカタログからの40タイトルをナイス・プライスで紙ジャケット化した「Touchstones」も記憶に新しい。

 ECMのつまりオーナー&プロデューサー=マンフレート・アイヒャーは、その草創期から人選に秀逸なセンスを発揮した。キースの初録音作を制作するにあたってソロ、ゲイリー・ピーコック+ジャック・ディジョネットとのトリオ、そしてチック・コリア+ピーコック+デイヴ・ホランドとの共演を提案して、キースがソロを選んだ結果、71年に『フェイシング・ユー』が生まれたのは、ファンに知られているところだ。本作の原点もやはりアイヒャーのアイデアにある。チャーリー・ヘイデンがエグベルト・ジスモンチのライヴに感銘。ヤン・ガルバレクがジスモンチの作品に参加。ガルバレクとヘイデンはキース作で共演。この3人のユニットをアイヒャーが企画し、79年に第1弾『マジコ』を吹き込んだ。そしてわずか5ヵ月後には第2弾『フォーク・ソング』が制作され、ECMではドン・チェリーらのコドナに続く特別ユニットとして期待が込められたように映った。しかし実際にはスタジオ録音の以上2枚で完結していたのである。

 ECMは70年代初めから80年代にかけて、ミュンヘンの“アメリカ・ハウス”でコンサートを数多く主催。アート・アンサンブル・オブ・シカゴ、ラルフ・タウナーなどのステージがアルバム化されており、本作も録音されるもお蔵入りになっていた音源ということになる。注目したいのは2枚組全11曲のうち、2枚のスタジオ作からは4曲にとどまること。つまり今となっては日本のファンの間にバンド活動のイメージがないマジコ・トリオが、実は運動体としての実績を残していた。この真実を驚きと共に耳を傾けるのが、本作の正しい味わい方なのだと思う。録音から約30年の間、3人はそれぞれの道で巨匠と呼べる実績を残した。そんな環境での本作は、明らかになるのが遅すぎる共演ライヴながら、予期せぬ副産物を孕んでいる可能性もあって、今後の動向に目が離せない。

【収録曲一覧】
Disc 1:
1. Carta de Amor
2. La Pasionaria
3. Cego Aderaldo
4. Folk Song
5. Don Quixote
6. Spor

Disc 2:
1. Branquinho
2. All That Is Beautiful
3. Palhaco
4. Two Folk Songs
5. Carta de Amor, var.

ヤン・ガルバレク:Jan Garbarek(ts,ss)
エグベルト・ジスモンチ:Egberto Gismonti(g,p)
チャーリー・ヘイデン:Charlie Haden(b)

1981年4月ミュンヘン録音

[AERA最新号はこちら]