「組織運営には、OBも含めてスタンフォード大とグーグルの関係者が関与している。自動運転でもグーグル方式の技術を世界に普及する別動隊ではないか。日本はこうした動きの蚊帳の外に置かれている」

 講習カリキュラム作成を担当するのは、独ダイムラーや画像処理の半導体に強い米エヌビディアなど。このほか、「パートナー」と呼ばれる協力企業がある。米国のグーグル、フェイスブック、アマゾン、ドイツのBMWやボッシュ、韓国のサムスン……。日本企業は今のところ一社もない。

 ある日本企業がユダシティのパートナーになろうと打診したが、「日本企業はクライアント」と一蹴されて断られたという。日本企業を「カモ」にするねらいではないか。

 二つ目の野望は「クルマのスマホ化」だ。

 アンドロイドがスマホの基本ソフト(OS)で主流となったように、ユダシティ自体が自動運転用ソフトの開発をねらっていると見る向きもある。自動運転のOSにアンドロイドのようなものが誕生すれば、スマホと同様に、ハードでの製品の差別化は難しくなる。

 クルマのスマホ化では、世界最大の部品メーカー、ボッシュも動く。

 エンジン制御など心臓部の車載ソフトを無線を介して更新する事業を18年末ごろから欧州で始める。この事業は「FOTA(Firmware Update Over the Air)」と呼ばれる。スマホのソフトをアップデートすれば新機能を即座に使えるのと同じ考えの技術だ。

 車載ソフトはこれまで、リコールなどのトラブルがない限り、新車購入後に書き換えられることがなかった。書き換える場合、整備工場に行く必要があったがそれも不要となる。自動運転時代はソフトを常に更新しないと、安全対策などの新機能を使えない。そのために必要な技術でもある。

 この分野で先鞭を付けたのが米テスラ・モーターズ。15年に発売したモデルから採用し、アップデートの準備ができると、車内の画面に表示される。テスラの導入当初は「クルマ版iPhone」とたとえられた。

 ドイツや米国の企業の動きは、日本の自動車産業のこれまでの「常識」を破壊するものだ。競争のルールを変えようとしている、とも見て取れる。

 かつて、ホンダの創業者、本田宗一郎氏は「不常識が大切」と語った。非常識ではない。過去の常識を健全に否定し、新しいことに挑戦することが重要という意味だ。日本の自動車企業は今まさに、この「不常識」の発想が求められている。

週刊朝日 2017年9月29日号