コンプリート・ライヴ・イン・パリ 1949
コンプリート・ライヴ・イン・パリ 1949
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1枚のCDにまとめられた40年代マイルスの最高ライヴ
Complete Live In Paris 1949 (Jazz Factory)

 40年代のマイルスといえば『クールの誕生』が有名だが、「有名であること」と「名盤であること」と「マイルス的であること」は必ずしも一致しない。つまり『クールの誕生』とは、マイルス的にみれば「おお、そこにいたのか」程度の存在感しかなく、じゃあ40年代マイルス究極の名演名盤はなにかといえば、ズッジャ~ン、パリ国際ジャズ・フェスティヴァルでのライヴに決まっているではないか。

 拙著『マイルスを聴けVer.7』をお持ちの方は、ここで32ページを開いていただきたいのだが、そう、そこに載っているCBS盤が、そのときのライヴを収録したもの。そして今回ここにご紹介するジャズ・ファクトリー盤は、そのCBS盤と、そこから洩れていた4曲を合体させたもの、よってタイトルは上記のように大きく出たものとなる。ちなみにこれら新規4曲、ソー・ホワット盤などにも収録されていたが、こうして1枚にまとめられたのは初のこと。1949年パリにおけるライヴ、今後はこのCDを新定盤としていいだろう。音質も過去最高(といっても、なにしろ1949年であることをお忘れなく。"針音"というボーナス・トラックまでついています)。

 1~9がCBS、10~13がソー・ホワットその他に分散収録されていたもの。ラジオの放送音源のため、演奏にかぶさるアナウンサーの声が邪魔だが、熱狂的な演奏はすべてを打ち砕いて突進する。加えて興味深いのが、マイルスが森進一のようなハスキー・ヴォイスになる前の声で曲名をアナウンスしていること(全曲ではない)。これがじつに初々しくも品が良く、マイルスが歯科医でゴルフが趣味の父親をもつ、根っからのお坊ちゃんだったことがわかる。

 演奏面で注目したいのは、この時点でマイルスが自分のサウンドをほぼ手中にしていた点。ひと吹きで「ああマイルスだ」とわかる、あの音。まだ貫録や存在感には欠けるが、のちにトレードマークとなる"水銀のような音"が随所で聴ける。また3の後半などでは、50年代初頭に開花するスロー・ナンバーにおける独特のフレージングの萌芽もみられる。アップ・テンポになるとまだそれほどではないが、ミディアムからスロー・テンポにかけての演奏は破綻なく、マイルスが本質的にバラード・プレイヤーであったことを示している。

 このCD、現在の基準からすれば音はヒビ割れ、古くさく響くスタイルのジャズではある。しかし感動の波は、半世紀を過ぎたいまでも大きく脈打ち、押し寄せてくる。40年代のマイルスを知りたければ、まずこれだ。

【収録曲一覧】
1.Rifftide
2.Good Bait
3.Don't Blame Me
4.Lady Bird
5.Wahoo
6.Allen's Alley
7.Embraceable You
8.Ornithology
9.All The Things You Are
10.The Squirrel
11.Crazy Rhythm
12.All The Things You Are
13.Farewell Blues

1~12:Miles Davis (tp) James Moody (ts) Tadd Dameron (p) Barney Spieler (b) Kenny Clarke (ds)

13:Davis (tp) Aime Barelli (tp) Hot Lips Page (tp) Kenny Dorham (tp) Bill Coleman (tp) Russell Moore (tb) Hubert Rostaing (cl) Sidney Bechet (ss) Charlie Parker (as) Don Byas (ts) Moody (ts) Hazy Osterwald (vib) Toots Thielemans (g) Al Haig (p) Tommy Potter (b) Max Roach (ds)

1949/5/8,9,12,14,15 (Paris)