夫:そんな女性は初めてだった。カバーにやられちゃったんです。

妻:それに役者なんだから、浮名を流すくらいじゃないと困る。女性にモテないような人は困るんです。

夫:そう言えるのは、この世界を知っているからですよ。僕は志乃を貧乏に耐えられる女だなと思った。役者の仕事って浮き沈みがあるから、普通の人じゃなかなか耐えられませんよ。

――似た水で生きてきた二人が一緒になるのは自然な流れだった。出会って約半年で結婚を決意。だが、夫は前妻との離婚が成立していなかった。

妻:私はとっくに離婚しているんだと思ってたんです。でも違った。だからプロポーズの言葉は「何年か待ってくれ」だった。

夫:うんうん。

妻:それについて深く聞かなかったし、いまだに聞いてないんですけどね。その後すぐ離婚が成立して、さあ結婚となったら、マネジャーから「じゃあ、後はよろしく」って前妻への慰謝料と、養育費の請求書を渡された。びっくりしましたけど、「それなら二人で仕事するしかないね」って。

夫:結婚して意外だったこと? そんなのまったくない。だから、今までもっているんでしょう。

妻:純粋な驚きはありましたよ。うちの父は着物しか着なかったから、私は背広を片付けたことがなかったんです。そのころ流行だった大きな肩パッドを「邪魔だわ!」とギュッとつぶしてタンスに入れたら、ペッタンコになっちゃった。

夫:なんだこれ!って。

妻:それに「うわあ、外と違って、家で安心しきっている中尾さんってこういうふうなんだ」とか。

夫:「こんなにわがままで、言うこと聞かないんだ……」とか?(笑)

妻:でも根本のところが合ってるので、「うわあ」って思ってもケンカにもならずに終わっちゃうんです。

「『こびてまで仕事はしたくない』中尾彬と池波志乃、生き方の美学」へつづく

週刊朝日  2017年8月18-25号より抜粋

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