サザエさん初版の復刻版(撮影/写真部・小山幸佑)
サザエさん初版の復刻版(撮影/写真部・小山幸佑)
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 朝日新聞などで約30年にわたって連載された「サザエさん」。単行本は誰もが知るロングセラーだが、書店に並ぶ単行本第1巻とは別に、初版の復刻本があるのをご存じだろうか。

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「B5判横とじ」というちょっと変わった判型の冊子『復刻/サザエサン』がそれだ。46ページに、単行本では読めない“幻”の作品も収録。1947年刊行の『サザエさん』の初版を長谷川町子美術館が忠実に再現した。書店にはなく、同美術館の売店だけで販売されている。

「長谷川町子の原点といえる一冊です。単行本には収められていない作品も載っていますよ」

 同美術館の学芸員、橋本野乃子さんはそう話す。

 サザエさんは46年4月、福岡市の地元紙「夕刊フクニチ」で連載が始まった。今でこそ、磯野家とフグ田家の3世代同居のイメージが強いが、フクニチ時代のサザエさんは独身のおてんば娘という設定。初版は、連載開始から4カ月間の作品の一部をまとめた。

「実は、初版は返品の山となったという逸話があるんですよ」(橋本さん)

 その経緯は、町子の漫画自叙伝『サザエさんうちあけ話』に詳しい。返品の理由は内容ではなく、本の「かたち」だという。珍しいB5判横とじの判型にしたため、「店頭に並べにくい」という理由で返品されたのだ。

 しかし、そこで出版をやめるどころか、大胆にも町子の母貞子が「型が悪かったんだもの。サイズを変えて2巻を出すのよ」と2巻刊行を提案。借金をしてB6判で2巻を出すと飛ぶように売れ、返品された初版も引き取られたそうだ。

 その後、初版はサイズをB6判に変えて第1巻として刊行された。注目すべきは、編集によって、初版に収められた90作品のうち、13作品が1巻では姿を消したこと。現在の単行本にも掲載はなく、いわば幻の作品となっている。

「古書店でも横とじの初版だけは出てこない。それだけ貴重な本なんです。多くの人に触れる機会をもってほしくて、その復刻をつくりました」(同)

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