何度聴いても"ク~ッ"の《コードM.D.》
Brand New Heaven (Sapodisk)
同一音源のバッティングという、つまりは複数のレーベルから同じ内容のものが同時期、あるいは時間差攻撃的に出ることが急増、とくにマイルスの80年代ライヴはなにかとややこしい事態に突入しているが、この1985年6月22日、コネチカット州ニュー・ヘヴンにおけるライヴも、サポディスクから『ブランド・ニュー・ヘヴン』、メガ・ディスクから『ニュー・ヘヴン1985』として、ほぼ同時に登場した。
ただしサポ盤のほうが2分前後短く、これはいわゆる回転速度の問題ではないかと。で、結論をいえば、ピッチはサポ盤のほうが正しいような気がする。よって、ここではサポ盤を紹介したい。ジャケットもメガ盤はちょっと怖いが、こちらはいかにもマイルスなポーズがキマッている。ちなみにこの写真、ニュー・ヘヴンではなくオランダのノース・シー・ジャズ祭で撮影されたもの。
ドラムスがアル・フォスターからヴィンス・ウイルバーンに交代した2か月後のライヴ。わかりやすくいえば、ニューヨーク公演で「アル・フォスター!」と大きな声で野次が飛んだ翌日のライヴ(拙著『マイルスを聴けV7』P667参照)。したがってレパートリーおよび演奏内容に大きな変動はなく、前日の野次ライヴ所有者にとっては不要といえば不要かも。とはいえ音質は雲泥の差、とくにベースとドラムスの音がヴィヴィッドかつクリアで、これってひょっとしてサウンドボード録音(いわゆる卓録)なのでしょうか。さらに邪推するなら、《サムシングス・オン・ユア・マインド》がフェイドアウト、つづく《タイム・アフター・タイム》が逆にフェイドインというのは、テープを交換しているときに生まれた空白を処理した結果か。ともあれ、「また出たの? 出しすぎだよ、もういいよ」との気持ちはわかるが無視するには惜しい2枚組、これから85年物をゲットしようと考えている人は有力候補に入れてもいいだろう。
ヴィンスが叩き出す乾いたビートが"ストタン、ストタン"とやってきました通称《ジャック・ジョンソンのテーマ》、そこに重なる会場アナウンスのマイルス・コールに臨場感はグワーッと盛り上がる。たたみかけるように気分一発で第一声を吹き放つマイルスが鋭く、やや先端がキンキンした音質が気になるが、うーん、やっぱりこれはオーディエンス録音なのか。いやいやヴィンスのカウントを取る声がここまで大きく鮮明に聞こえるのはオーディエンスではありえないなどど考えているうちに《コードM.D.》の貫禄のイントロが飛来、ク~ッ。新発見はないがこの安定感とグルーヴは、やはりたまらない。
【収録曲一覧】
1. One Phone Call / Street Scenes-Speak
2. Star People
3. Maze
4. Human Nature
5. Something's On Your Mind (incomplete)
6. Time After Time (incomplete)
7. Ms. Morrisine
8. Code M.D.
9. Pacific Express
10. Katia
(2 cd)
Miles Davis (tp, synth) Bob Berg (ss, ts) John Scofield (elg) Robert Irving (synth) Darryl Jones (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)
1985/6/22 (New Heaven, CT)