「私は基本的には反対だったんです。確かに無年金者は減りますが、低年金者を増やす結果になりかねませんから。生活の支えにならない年金額で、何をしろというのでしょうか」

 老齢基礎年金だけでは、10年加入だと月約1万6千円にしかならない。10年間会社勤めをして平均月収が20万円だと仮定しても、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて月約3万円。確かに、これでは生活はできない。

 相談業務をしている前出の社労士も、

「私が担当した中では、最高で年70万円ぐらいになった人がいましたが、イメージとしては平均で年間30万~50万円の人が多い感じです」

 機構によると、今回初めて老齢基礎年金を受給する人の平均は「月2万1千円」、老齢厚生年金は「月1万1千円」だった(厚生年金はサンプル調査)。両方合わせて「月3万2千円」となる計算だ。

 ほかにも懸念はある。10年でOKとなると、ある種の「誤解」を生む恐れがあるというのだ。

「10年で年金がもらえるとなると、『10年間、保険料を納付すればそれでよい』という短絡的な考え方が、若い世代を中心に生まれはしないかと心配しています。年金は納付実績に応じて額が決まるので、将来の低年金者を増やすことになってしまいます。それに年金には、障害年金や遺族年金もあります。10年経ったからと安心して未納を続けてしまうと、万が一の時に障害・遺族年金が受け取れなくなってしまいます」(三宅氏)

 機構はこうした懸念が現実化しないように、学生向けのセミナーを開いたり、「ねんきん定期便」を通じて納付意欲の向上を図ったりするという。

 今の年金は賦課方式で、その年に集められた保険料はそのまま受給者への支払いに充てられる。保険料を払わない人が増えれば、その分お金が足りなくなり、積立金を取り崩さざるを得なくなる。

 無年金者らへの朗報が、将来の年金のマイナスにならなければよいのだが……。

週刊朝日 2017年8月11日号

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