この流れが決まったのが、昨年10月に開かれた政府の規制改革推進会議の農業ワーキング・グループの会議だ。同会議は「民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法は廃止する」と提起。今年2月に種子法の廃止が閣議決定された。
なぜ、日本の農業を支えてきた法律が大きな議論もなく廃止されたのか。そこで関係者の間で指摘されているのが、TPP(環太平洋経済連携協定)との関係だ。前出の山田氏は「種子法の廃止は、日本がTPPに対応するための制度変更の一つにすぎない」と話す。
実は、TPPには協定文とは別に日米二国間で交わした交換文書(サイドレター)がある。そこには「政府は規制改革会議の提言に従って必要な措置をとる」と明記されている。
今回は、この文書のとおりに事が進んだ。トランプ大統領はTPPからの離脱を表明し、現在は日米自由貿易協定(FTA)の交渉を求めているが、サイドレターの効力は生きている。昨年12月の国会でサイドレターについて問われた岸田文雄外相は「我が国が自主的にタイミングを考え、実施していくことになる」と答弁しているからだ。
「韓国は、米韓FTAの締結によって200本の国内法を変更しました。TPP協定を批准した日本も同じことを求められる」(山田氏)
メキシコでは、同国原産のトウモロコシを元に米国企業がGM種子を開発・普及し、今では地域ごとに代々継承されてきた種子が失われつつある。多様性に富んでいたメキシコのトウモロコシは、食卓から消えた。日本では主食用で作られているコメだけで200品種以上あるが、今後、メキシコと同じことが起きないとは限らない。
種子法廃止を不安視する声が相次ぎ、参院の農林水産委員会で種子生産の予算確保や、外資による種子独占の防止などを求める付帯決議が採択された。
種子法が廃止された直後に大きな変化が起きる可能性は低いだろう。しかし、「長期的には不透明」(西川教授)だ。
種子の大切さを訴えたデンマークの研究者ベント・スコウマンは、亡くなる前にこんな言葉を遺した。
「種子が消えれば食べ物も消える。そして君も」
前出の西川教授は言う。
「種子は、太陽や土、水と同じように農業にとって大切な資源。日本人は、自らの食べ物をどう守るのか。それが問われている」
※週刊朝日 2017年6月30日号