予算だけではない。5月に成立した「農業競争力強化支援法」では、自治体や農業試験場が持つ種子生産の技術や知識を、民間企業に提供するよう定めている。だが、民間企業の種子の多くは高額だ。農水省OBの篠原孝衆院議員(民進党)は、こう指摘する。
「北海道の農業試験場が育成した『きらら397』の種子は、20キロ7千円程度。しかし、民間で開発された種子はその10倍以上するものもある。種子法の廃止によって、将来的に種子の値上げも予想される。コメの価格が上がり、消費者も負担を負うことになる」
外国企業の「種子の囲い込み」も懸念されている。
「農業界では『種子を制するものが世界を制す』と言います。種子生産の技術が無制限に民間企業や多国籍企業に開放されれば、今後は日本の種子を巨大資本の外国企業が牛耳ることにもなりかねない」(篠原議員)
トランプ米大統領は貿易赤字解消のため、日本政府にもっと米国の農産物を輸入するよう攻勢を強めている。その裏側で、世界の大手種子企業は、業界再編を進めている。
ドイツの医薬・農薬大手のバイエルは、米国の遺伝子組み換え(GM)種子最大手のモンサントを660億ドル(約7兆2600億円)で買収。同じく農薬・種子業界大手の米国のダウ・ケミカルはデュポンと合併した。
中国も種子ビジネスに熱心だ。中国化工集団(ケムチャイナ)は、スイスの農薬・種子メーカーのシンジェンタを430億ドル(約4兆7300億円)で買収。中国化工集団は中国を代表する巨大国有企業で、習近平国家主席の傘下にある。
元農水大臣の山田正彦氏は、こう指摘する。
「コメなど主要作物の種子は、現在は国内で自給できていますが、世界の巨大企業との競争になれば今後は危うい。日本は食の安全保障の危機を迎えている」
農水省は、種子法廃止の理由を「多様なニーズに対応」「民間ノウハウも活用して、品種開発を強力に進める」ためと説明する。