原発問題に揺れる日本。その先行き不透明な将来をジャーナリストの田原総一朗氏が分析する。
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6月9日付の日本経済新聞は、「経済産業省が国のエネルギー基本計画の見直しに着手し、将来の原子力発電所の新増設や建て替えの必要性の明記を検討する」と伝えた。
こんなことを考えたのは、いったい誰なんだ。おそらく追及していくと、責任者はいないのだと思う。
小泉純一郎元首相はいま、原発反対を主張して全国を回っている。そのきっかけは、フィンランドで使用済み核燃料の地下最終処分場「オンカロ」を視察したことだった。フィンランドでは何万年も変動しない地殻を500メートル以上掘り、そこに使用済み核燃料を置くことになっている。これが「オンカロ」である。
「オンカロ」に置いた使用済み核燃料が無害化するのにどれくらいかかるかと問うと、答えは10万年だった。それを聞いて、小泉氏は原発反対を主張し始めたのである。
だが、日本には「オンカロ」も、そうした施設をつくる計画もない。そして、使用済み核燃料はすでに1万7千トンもたまっているのである。
2012年、当時民主党政権で首相だった野田佳彦氏が、「30年代の終わりまでに原発をやめる。使用済み核燃料の再処理もやめる。そして大間原発の建設も認めない」という方針を打ち出そうとした。だが、青森県から強烈な抗議を受け、撤回せざるを得なかった。
現在、青森県の六ケ所村に使用済み核燃料再処理工場があり、全国の原発で使用した核燃料が集められている。もし再処理が行われなければ、これらはすべて「核のごみ」となる。それを押し付けられるわけにはいかない青森県は、再処理をやめるなら使用済み核燃料を全部、全国の原発に戻す、と宣言したのだ。戻されたら全国の原発には置き場所はない。あわてて経産相が青森に飛び、再処理を認めることにした。
再処理で取り出したプルトニウムとウランは高速増殖原型炉「もんじゅ」で燃料として使われることになっていたのだが、当時すでに「もんじゅ」は停止したままで、稼働の可能性はほとんどなかった。だから再処理しても無意味なのだが、使用済み核燃料を戻されると困るので認めたのである。青森県の立腹を抑えるために、大間原発の建設も認めた。
この件は、12年の野田内閣の処理と酷似している。使用済み核燃料を全国の発電所に返す、と言われるのを恐れての方策なのであろう。
実は、政府にも自民党にも、原発の責任者というものがいない。私はこのことを心配して、自民党の幹部たちにも、内閣のしかるべきポジションの人物にも、責任者をつくるべきだと強く進言してきた。あなたがやってはどうか、と何人にも求めたのだが、いずれも拒まれた。原発推進とか原発反対などという以前の問題なのである。
責任者なしに原発計画が進められる。これほど危険なことはない。しかも原発を新増設するとはどういうことなのか。私は何人もの自民党幹部に「再稼働はあっても新増設はできないだろう」と問い、誰もが「無理だ」と語っていたのである。それなのに、なぜこういうことになったのか。これはどういうことなのか。
※週刊朝日 2017年6月30日号