ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。ユーチューブが示したヘイトスピーチなどの動画に対する広告不掲載について解説する。
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海外でヘイトスピーチとフェイクニュースに対抗する動きが風雲急を告げている。望まない動画に広告が自動的に掲載されるとして、大手企業から相次いで広告出稿をとりやめられていたユーチューブが、ついに重い腰を上げた。新しい広告のガイドラインを6月1日に発表したのだ。
ガイドラインで広告を不掲載にする対象として定義されたのは、ヘイトスピーチを含む以下の3カテゴリーだ。
(1)ヘイトスピーチ→人種、民族、出自あるいは民族的起源、国籍、宗教、障害、世代、軍役経験、性的指向、性自認、その他体系的な差別あるいは排斥に関連する特徴にもとづき、個人または団体への差別、さげすみ、侮辱を促すコンテンツ。
(2)子供向けキャラクターの不適切な使用→子供向けキャラクターの暴力的、性的、不快、その他不適切な行為を表現したコンテンツ(これはコメディーまたは風刺目的であっても適用される)。
(3)扇動的、侮辱的コンテンツ→不必要に扇動的、扇情的、侮辱的なコンテンツ。たとえば、無礼な言葉で、個人や集団を侮辱するビデオコンテンツ。
かなり具体的に動画コンテンツの内容が指定されている。このガイドラインに抵触した動画が投稿された場合、これまでは自動で挿入されていた広告が掲載されないため、製作者が投稿するインセンティブを大きく減らすことになる。
広告を非表示にする動画を明確化することには様々な意見があるが、ヘイトスピーチを減らすという一点においては、効果を上げていくのではないかと思われる。
そんな中、世界中で自社の広告を、フェイクニュースを流すサイトやヘイトスピーチを扇動するサイトに掲載しないと宣言した大企業がある。英ボーダフォンだ。ボーダフォングループのビットリオ・コラオCEOは、6月6日に発表されたプレスリリースで以下のように述べている。
強い決意でヘイトスピーチやフェイクニュースに対抗していくことがうかがえる。今後は自動で広告が挿入されるネットメディアではなく、有害なコンテンツを含まないきちんとしたメディアの「ホワイトリスト」を作って、そのリストを適宜メンテナンスしながら出稿していくそうだ。
大企業が広告という技術を通じてヘイトスピーチやフェイクニュースに「No!」を突きつけたことには大きな意味がある。これが今後、世界的な潮流となることを期待したい。
※週刊朝日 2017年6月23日号