「藩閥を維持するには後継者を育てる必要があり、学校をつくって東京に学生を送り込んだ。立身出世のため、子弟を官学、特に東京に送ろうとする強い意識につながったのだろう」
受験を語るうえで欠かせないのは、北陸の教育熱心さだろう。文部科学省の学力調査で、富山県、石川県、福井県は上位の常連だ。卒業生千人あたりの東大・京大の合格者でも、石川6位、富山9位と上位。岩中さんは言う。
「石川はかつて加賀百万石と呼ばれて高い経済力で知られ、江戸時代から文化・芸術が盛んでした。公立の芸術系大学(金沢美術工芸大)がある、全国でも数少ない都道府県の一つです」
東大の本郷キャンパスは、かつて加賀・前田家の江戸藩邸があった場所。赤門は当時の御守殿門だった。
石川は人口に対して大学の数が多く、北陸の学問の中心地とも言える。このため、富山からも石川の私立大学を志望する生徒が多い。
一方で、西隣の福井は関西を向く。東大志向より京大志向が強く、私立大の第1志望は京都の立命館大。石原さんはこう話す。
「石川と福井の境に、西日本と東日本の文化の断層を感じる。福井は主に北陸電力エリアだが、関西電力の原発が多くつくられた。関西と結びつきが強い地です」
岩中さんの見方はこうだ。
「福井は昔から商売っ気が強い地。人口あたりの社長輩出率が全国一で、人に使われるより自ら業を営む気風。自由な雰囲気の京大のほうが性に合うのでは」
北陸新幹線開通で、富山と石川はますます東京との距離感が縮まった。福井まで延伸した際、福井県民の志向は変わるかもしれない。
志望校選びなど教育に関する選択は、その地域の意識も映す。親から子へと受け継がれる一方で、交通網の改善などでも変わる。あなたの地元の意識はどうだろうか。
※週刊朝日 2017年5月5-12日号より抜粋