小学生の頃は、超がつくほどのドラマっ子だった。放送されている連続ドラマはほとんどすべてをチェックし、無意識のうちに好きなドラマの主人公の台詞をまねしていたこともしょっちゅう。「普通に生活していたら滅多に出会えない感情に出会えることが、快感だったのかもしれません」と澄んだ声で杉咲花は話す。
大好きだった志田未来さんが所属する芸能事務所のオーディションも、自分の意思で受けた。若手ながら確かな演技力で、様々な映像作品で存在感を発揮しているが、撮影現場では、“役を演じる”より“役と同じ感情になる”ことを心がけている。
「台本をいただいたときも、こう演じようと頭で考えないようにしています。それよりも、役が置かれた状況や心情をイメージして、あとは現場で生まれる空気みたいなものを大事にしたい。そうすると、お芝居の現場では自然でいられてラクな分、私生活に役の感情を引きずってしまうので大変なんですが(苦笑)」
三池崇史監督と木村拓哉さんがタッグを組んだ映画「無限の住人」ではヒロイン役。初の時代ものということもあり、2カ月間殺陣の稽古を積み、和服での所作を身につけるために日本舞踊も習った。
「殺陣を習い始めたときは、木刀を持ったときの自分の立ち姿があまりに様になってなくて、愕然としました(苦笑)。でも、多少なりとも動きが体になじんでくると、俄然立ち回りが楽しくなったんです。成果の見えやすい殺陣に比べると、所作のほうが難しかったですね。『着物に着られてはダメですよ』と、細かく厳しくご指導いただきました」
原作の漫画を読んだとき、主人公で不死身の肉体を持つ万次と、杉咲花さん演じる凜の、家族でも恋人でもない、でも深いところで信じ合える関係性に惹かれたという。
「両親を殺された凜は、殺した相手への仇討ちを誓って、万次さんに自分の用心棒になってくれるよう頼みます。凜が敵と闘う根底には、恨みや憎しみがあるけれど、万次さんと出会って、人を心から信頼するようになれたことで、人間として成長していけるんです。だから、今回私が一番爆発させなきゃいけなかった感情は、“まっすぐに人を信じること”だったのかもしれません」
とはいえ、どんなに頑張った作品でも、出来上がりを観ると、反省点ばかりが目につく。一方で、「できなかった、悔しい」と思うから、次にいけるのだとも思う。
「根が飽きっぽいので、一つの役を終えて次にいけるこの仕事は、性格的にも合っています。その代わり、集中力が続かない。以前、テストを頑張りすぎて、本番に集中力が切れたことがあって……。三池監督から、テストで『その100倍やってくれ』と言われたときも『本番までとっておかなきゃ無理だ』と思い、自分で出力をコントロールしました(笑)」
※週刊朝日 2017年4月28日号