ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。「乳児ボツリヌス症」で乳児が亡くなった事件をきっかけにわかった、ネット事業者の不十分な安全確認体制について指摘する。

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 東京都は4月7日、蜂蜜入りジュースを与えられたことによる「乳児ボツリヌス症」で、足立区に住む生後6カ月の男児が死亡したことを発表した。

 日本初の事例ということもあり、ネットでも大きな反響を呼んだ。やり玉に挙がったのが、日本最大のレシピ検索サイト「クックパッド」だ。国や自治体が1歳未満の乳児に蜂蜜を与えてはいけないと注意を呼びかけていたにもかかわらず、クックパッド上には蜂蜜を使う離乳食レシピが約140件も掲載されていた。

 これだけでなく、飲食店での提供が禁止されている豚肉の生食を扱うレシピなども投稿されていたことから、安全確認体制を疑問視する声が相次いだ。

 こうした指摘に対しクックパッドは4月9日、サイトのトップページで声明を発表。死亡事故を受けてサイト内に投稿された料理レシピを改めて確認し、必要に応じて注意喚起をする方針を示した。

 だが、「必要に応じた注意喚起」だけで同様の事故が防げるのだろうか。健康上のリスクが指摘されるレシピが大量に投稿され、誰もが閲覧可能だったのである。問題のあるレシピが投稿された場合、すぐに排除される体制が構築されなければ、根本的な解決は見込めない。

 クックパッドは利用規約で「本サービスの利用により発生した利用者の損害については、一切の賠償責任を負いません」としている。レシピの利用はあくまで閲覧者の自己責任という態度を貫いている。投稿するのはあくまでユーザーで、情報発信を手伝う「プラットフォーム」というスタンスなのだろう。

 
 懸念すべきはクックパッドの社会的影響力だ。同社の最新のIR資料を見ると月次利用者数は6327万人。日本人の2人に1人が利用していることになる。それだけ閲覧数の大きいメディアに一部とはいえ人体に危険を与える情報が掲載され、チェック体制が十分でないことが明らかになった。今後、同社に求められるのは「必要に応じた注意喚起」ではなく、すべてのレシピを栄養士ら専門家にチェックしてもらった上で掲載する体制の構築である。同社の2016年の営業利益は約50億円。決して払えないコストではないはずだ。

 専門家による監修をせずに不確かな医療情報を発信していた「WELQ」は、運営元のDeNAの社会的信用を大きく失わせた。第三者委員会による検証を経た後の記者会見で、守安功社長は「情報の質の担保という本来メディアの事業者として行わなければいけなかった点が不足していた」という認識を示した。つまり、DeNAはユーザーの投稿を手伝うプラットフォームではなく、自らを情報発信する主体──「メディア事業者」と位置づけたということだ。

 扱っている情報が生命に関わるという重大性、利用者の多さ、上場企業という公共性を考慮すれば、クックパッドも自らをメディア事業者として位置づけるべきだ。誰もが簡単に情報を発信できる今の時代だからこそ、影響力の大きなプラットフォーム事業者は、情報の内容について社会的責任を負わなければならない。

週刊朝日  2017年4月28日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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