ブリュッセル 1988
ブリュッセル 1988
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ネヴァー・エンディング状態に突入したマイルス・バンド怒涛の3枚組
Brussels 1988 (Cool Jazz)

 ネヴァー・エンディング・ツアーといえばボブ・ディランだが、いえいえ80年代後半のマイルスのネヴァー・エンディング・ショーにもすごいものがある。老いてますます盛んという言葉があるが、マイルス自身「オレも老いたな」の意識はなく、このブリュッセル・ライヴなど3枚組にしないとまかないきれないネヴァー・エンディング状態。しかも3枚目は15分程度で終わりという上げ底ではなく、たっぷり5曲も収録されている。

 オープニングの《イン・ア・サイレント・ウェイ》の前半、マイルスがアガパン的にキーボードを押さえてカツを入れているように聞こえるが、おそらくジョーイ・デフランセスコだろう、サウンド面でトラブルでもあったか、苛立ちをキーボードにぶつけているように聴こえないでもない。開始6分過ぎからのオープンによるマイルス、それを受けてすかさず渋滞気味のサウンド・ハイウェイに割り込むケニー・ギャレットのアルトの鳴りはキャノンボール・アダレイかデイヴ・シルドクラウトか。ペットの鳴りということでいえば、《リンクル》の真っ正直なトーンもすばらしい。青々とした若ささえ感じられる。その後のアクロバティックなアダム・ホルツマンのキーボードはちょっとつらい。背後で怪しくうごめくジョーイのほうがマイルスをわかっているではないか。

 2枚目に入ってアタマが《TUTU》と理想の展開。リッキー・ウェルマンの「スリー、フォー」とカウントを取る声がかっこいい。このイントロ、派手に流れるか厳かにとどまるか、はたまたその折衷でいくかは出たとこ勝負、この日はうまいバランスで"派手な威厳"という、なかなかにマイルスなムード。必殺《タイム・アフター・タイム》で十分すぎるほど卵の殻の上を歩いたあとは童謡としか聞こえない《ムーヴィー・スター》という、この劇的なまでの落差がなぜか頼もしい。

 いよいよ3枚目は《ドント・ストップ・ミー・ナウ》、マイルスの「ヘイ、なんとかかんとか」って、メンバーかスタッフに向かって注文を出しているのでしょうか。以前はこの曲、最高に好きだったがアダムの妙に軽いキーボードで彩られるようになってからは、本体よりもエンディングを経て《カーニヴァル・タイム》になだれ込んでいく瞬間になんともいえない恍惚と快感を感じる(どっちかひとつにしなさい!)。そして《トーマス》の哀愁はもうク~ッ。とくに本日はマリリン・マズールのパーカッションがいつも以上に効いて哀愁の扉をコンコン、うーむ、この繊細な完成度はライヴとは思えない。

【収録曲一覧】
1 In A Silent Way-Intruder
2 Star People
3 Perfect Way
4 The Senate / Me And You
5 Human Nature
6 Wrinkle
7 Tutu
8 Time After Time
9 Movie Star
10 Splatch
11 Funk Suite
12 Heavy Metal
13 Don't Stop Me Now
14 Carnival Time
15 Tomaas
16 Burn
17 Portia
(3 cd)

Miles Davis (tp, synth) Kenny Garrett (as, fl) Joey DeFrancesco (synth) Adam Holzman (synth) Foley (lead-b) Benny Rietveld (elb) Ricky Wellman (ds) Marilyn Mazur (per)

1988/10/29 (Belgium)