1年間に日本で捨てられる食べ物は約632万トン。その「食品ロス」を減らす取り組みが各所で始まっている。
3月某日の正午過ぎ。ご本尊の前には、あふれんばかりのお供え物が並んでいる。チョコレートにスナック菓子、高級そうな菓子折り、果物の缶詰にみかんの山。住職が手を合わせ、鐘を鳴らしながらお経をあげ始めた。
数分後、うやうやしくお菓子を取り上げ、用意された段ボールの元へ運び、箱詰めしていった。
神奈川県の東戸塚駅からバスに揺られ10分ほど。街に溶け込みながらも、厳かな空気が漂う妙法寺がある。700年の歴史を持つ日蓮宗の古寺だ。年間約350件の法事を執り行うが、その数だけにお菓子や果物など、お供え物の数も膨大だ。
「腐らせてしまったりして、処分することがないように、地域住民の方々におすそわけしたり、来客への茶菓子として出したりしていたんです」
そう話すのは住職の久住謙昭さん(41)。ただ、それだけでは消費が追いつかないうえ、羊かん1本など、茶菓子としてさっと出せないものは残ったりしていた。
もったいない──。頭を悩ませていた久住さんは、3年ほど前に「おてらおやつクラブ」の活動を知った。経済的な困難を抱え、貧困にあえぐ子どもたちに、余ったお供え物を送って支援する活動で、今では宗派を超えて、全国570以上の寺院が参加する。
「これだ、と思いましたね。なんてすてきな活動だと感動しました。お供え物はどうせ住職が食べてるんでしょう、という意識を持たれるかもしれませんが、こういった活動を寺のフェイスブックなどを通じて公にしています」
妙法寺は2014年から活動を始め、子どもの貧困支援団体から紹介を受けた母子家庭宛てに、段ボール箱にお供え物を詰めて送る。
「ひと家庭では食べきれないくらいの量を詰めます。シングルマザーの方は何かと思い悩むことが多いでしょうから、周囲との関係づくりも必要だと思うんです。お隣さんへのおすそわけなども考えて多めに送っています」
それには理由がある。母親が子どもを残して男性と出かけてしまい、気づいたら子どもが餓死してしまった、という過去の痛ましい事件に思い至ったからだ。周りが気づいてあげられずに起きた悲劇を再び起こしたくはないという思いが「多めに詰める」という行動に込められている。
「おてらおやつクラブ」を呼びかけた奈良県・安養寺の松島靖朗住職は語る。