──今後の懸念材料は?
田久保:中国です。日本が最も警戒すべき点は米中間の新型大国関係という概念です。これは、習氏が副主席のときに言いだしたもので、米国と中国は大国で相互に主権を尊重し、万事、国家関係をうまくやっていきましょうというものです。2008年3月、上院軍事委員会で米太平洋軍のキーティング司令官(海軍大将)が07年に訪中し中国海軍高官と会談した際、中国高官が「太平洋をハワイで割りましょう。ハワイ以東は米国、以西はこっち(中国)が管理しましょう」と提案したと証言した。これが習氏の新型大国関係の雛型と言われている。米中間でこういう話がつくと、同盟国の日本にとっては大変な脅威で重大な選択を迫られる。早急に中国にアプローチし、戦略的互恵関係を再確認することが求められる。
──久しく、日中首脳間の対話がない現状です。
田久保:今の官邸は経済産業省色が強く、戦略家がいなくて困るね。安倍さん自らが訪中して話をつけるべく接触すべきです。沖縄返還をにらみ常にワシントンを見て、ニクソン訪中に対処し、日中国交正常化の下地をつくった佐藤栄作元首相に倣って、中国と融和・協調路線に持っていったほうがいい。トランプ氏はディール(取引)外交で日中を天秤にかけている。繰り返すが、トランプ氏と習氏がいちゃつくと、安倍さんは最低の立場にたたき落とされる。米中間の話し合いがついたときの恐ろしさを日本人は知らない。トランプ氏と握手して訪米成功と喜んでいる場合ではない。中国とも握手すべきです。
──昨年来の対ロ外交では身内の二階俊博自民党幹事長ですら「国民は失望した」と述べ、外交交渉として失敗との批判が強かった。
田久保:日本にとって、注目すべき大国は米中に加え、ロシアの3国です。巷間言われている原則を曲げて、2島返還プラスアルファという考えはおかしい。北方領土の主権を譲ると、尖閣諸島や竹島まで譲らざるを得なくなる。ロシアのクリミア併合に対しても、けしからんと正義に立って正しい主張を普遍的価値観でもって貫けるか疑問だ。安倍さんは4島一括返還を譲ってないと怒るかもしれないが、主権をいい加減にして重要な北方四島を譲って交渉をやると国家の看板が泣く。ロシアには原油安と少子高齢化の急速な進行という二つの問題がある。軍事力による覇権をやめて、日本と仲良くなる以外にオプションがあるかという現実にぶちあたっている。