田久保:安倍さんだけが優遇されているわけではないのです。絶えず心配しなければいけないのは、日中国交正常化前のニクソン米大統領の電撃訪中で世界が震撼したニクソンショック(1972年)しかり、同盟通信上海支局長を務めた松本重治さんが書いた『上海時代 ジャーナリストの回想』という著書の中で「日米関係というのは日中関係である」という趣旨の記述だ。つまり、日米中の3国が共に仲がいいことはあり得ないということです。トランプ氏は首脳会談後の記者会見で米中電話会談を問われ、「ベリー、ベリー、ベリーナイス、素晴らしい」と答えた。「ベリー」という言葉を9回も口にした。異常です。トランプ氏が北京をどう見ているか見定める必要が大事だということです。

──トランプ政権自体もフリン大統領補佐官が辞任するなど、依然、不確定要素が強いように見えます。

田久保:戦後70年間、米国は国際問題のトラブルを回避するリーダーだった。そのリーダー自身が病んでしまったのは初めてのこと。そこが最大で唯一の問題なんです。米国がリーダー足り得たのは外交・安全保障面で戦略的な人物が一時代を築き、危機を救ってきたからです。ニクソン時代のキッシンジャー国務長官、カーター時代のブレジンスキー大統領補佐官しかり、戦略的な強い人が大統領の側近にいた。

──現トランプ政権では見受けられないですね。

田久保:トランプ氏にとって、1番は家族。2番目がバノン首席戦略官、ナバロ国家通商会議議長ら。3番目は言葉は悪いが使用人のペンス副大統領やティラーソン国務長官らです。われわれがいちばん望んでいるのは3番目の人たちが力を持ってくれることなのだが、なかなかそうならない。バノン氏とプリーバス首席補佐官、クシュナー上級顧問の3人が人事とカネを握っているので、ホワイトハウスはどうにもならない。麻痺状態に陥っている。日米関係を完全に固めきれるかどうか不安が残る。保護主義的政策を実行し、米国の内向き政策がさらに加速していくでしょう。

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