メイキング・オブ・カインド・オブ・ブルー<完全版>
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これでとにかく"ブルー・セッション"は完全なり(&ここだけの話)
Making Of Kind Of Blue : Complete Version (So What)

 世紀の名作『カインド・オブ・ブルー』とそのセッションを収録したブート名盤『メイキング・オブ・カインド・オブ・ブルー』に関しては拙著『聴け』のいくつかのヴァージョンを読んでいただくとして、今回は「会員限定ここだけの話」と題し、そもそもの発端となったセッション・テープの出生にまつわる秘密を公表したいと思う。

 1979年か80年のことだったと記憶する。CBSソニーがマイルス未発表シリーズという企画を立て、その下調べとして米コロンビア・レコードの保管庫に乗り込み、相当数のセッション・テープをコピーし、持ち帰った。その多くは結果的に後年のボックス・セットで日の目を見たが、当時は日本にしかコピーはなく、シリーズ化が実現すれば世界的な快挙になるはずだった。しかし米コロンビア・レコードから「待った」がかかり、「まだか、まだか」と待つうちに「白紙に戻せ」との指示がくる。理由は「マイルスが復帰するから」。そうであったか。うーむ、なるほど。そういうことであれば仕方がない。奇跡の復活にタイミングを合わせて旧録音を出すようなことは企画として通るわけがなく、ここはひとつマイルス復活を盛大に祝い、復帰第1弾(のちの『ザ・マン・ウイズ・ザ・ホーン』)を盛り上げようではないかと、まあそのような結論に至る。

 こうして未発表シリーズはボツとなり、コピーしてきたテープは「絶対に内緒だよ」の言葉とともに業界内に出回り、それが2000年発売の『メイキング・オブ・カインド・オブ・ブルー』として生まれ変わったという次第(いま急に思い出したが、ワタシ、85年ごろ、そのテープを使って、東京四谷のジャズ喫茶『いーぐる』で「カインド・オブ・ブルー未発表テープを聴く会」というイヴェントをやったことがありました。後藤さん、覚えてますか?)。

 以上のような経緯を経て『カインド・オブ・ブルー』のセッション・テープはブートCDとして世に出たわけだが、問題はCD1枚分に収めるために会話や試運転の一部がカットされていたこと。しかも後続のブートレガーはそのことを知らず、例外なく『メイキング・オブ・カインド~』をオリジナル・ソースとし、そのコピーを出しつづけてきた。過日発売された50周年ボックスにはセッションの完全版が収録されるものと思われたが、既発ブートよりも短い収録とあって期待はあっさりと裏切られた。

 そして、いよいよ今回初の完全版の登場となる。日本のレコード会社が発掘調査し、そのコピーが関係者の手に渡り、あちこちを回り回ってざっと30年弱、なんと長い道のりだったことか。最後に。一般的なマニアはこれまでの『メイキング~』やそれに準じたコピー盤で十分かも。ただし「せっかく完全版が出たのだから、少々長くなっただけとはいえやっぱり手に入れておかなければ」と考える"ねばねばマニア"は、言うまでもなく入手しておくべき傑作にして「超」がいくつもつく貴重なセッション物だろう。ジャケットも秀逸、しかも細かいトラック・ナンバーも付されている。

【収録曲一覧】
1-5 Session of Freddie Freeloader
6-8 Session of So What
8-13 Session of Blue In Green
14-19 Session of Flamenco Sketches
20 Session of All Blues
(2 cd)

Miles Davis (tp) Cannonball Adderley (as) John Coltrane (ts) Bill Evans (p) Wynton Kelly (p-Freddie Freeloader only) Paul Chambers (b) Jimmy Cobb (ds)

1-13 : 1959/3/2 (NY)
14-20 : 1959/4/22 (NY)

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