作家・室井佑月氏は、政府の推し進める「共謀罪」法案の内容から、この国の在り方を問いただす。

*  *  *
 
 まずはじめに大きな声で叫ぶ。

「ヒロジを返せ!」

 ヒロジといえば、去年の10月に逮捕された沖縄の反基地運動家、山城博治さんである。

 なんでも、高江での抗議活動中、2千円相当の有刺鉄線一本を切った容疑で逮捕され、ほどなく、沖縄防衛局職員の肩をつかんでゆさぶってけがを負わせるなどの容疑も加わったみたいだ。

 その程度のことで、3カ月も勾留。家族にも会わせてもらえないんだって。……異常だな。

 彼がここまでやられる理由は、誰が考えてもわかるでしょうが。

 菅官房長官が『共謀罪』は「一般の方々が対象になることはありえない」とかいっていたけど、一般の人かどうかを決めるのは、逮捕する側なんだっちゅーの。

 もうすでに、政府に刃向かう人は一般人じゃないって解釈が許される世の中になってやしない?

 政府に刃向かう人、とくに目立つ人に目星をつけ、盗聴でもなんでもがんがんやって、微罪で逮捕。後から罪はなんとでも作り上げられていく。そんな世の中になれば、誰も本音をいえなくなる。戦争反対って当たり前のことをいうのもはばかられ、子どもに赤紙がきても万歳三唱しなきゃならなくなるのか?

 安倍首相は1月10日、共同通信の単独インタビューで、「(共謀罪の)成立なしで五輪開けない」と語った。

 が、そこまでして東京オリンピックをやりたい国民はどれほどいるんだ?

 世論調査では、五輪に期待するかしないかだけでなく、まずはじめに、この国の貧困問題をあげ、その上、共謀罪の危なさなども話し、そうそう未だどうやったら解決できるんだかわからない福島第一原発の現状も、五輪招致を巡って賄賂疑惑が出た巨額支出の話もしてから、

「東京オリンピック、やるべきだと思いますか?」

 と聞いてもらいたい。ぜんぶ、本当のことじゃん。そこまでしての世論調査だ。

 東京新聞の1月9日付「こちら特報部」のデスクメモがまたイカしてた。

 
〈現代の治安維持法たる共謀罪を導入しないと、五輪が開けないという。ならば五輪などやらなくてもよい〉

 ほかの新聞もこのくらいわかりやすく、はっきりと書いてほしいよ。

〈米軍がいないと、中国に侵略されるという。米軍が守ってくれるという「お花畑思考」は論外だが、米軍基地とテロの関係も語られない。今年はおめでたい空気と決別したい。(牧)〉

 ひゃー、ラストの嫌味もいいね、いいね。

 大統領になったトランプさんがどう出るかと騒ぐ前に、この国がどうしたいか、どうありたいかの、国民を交えた話し合いはなぜ展開されていかないのか? すべてがその時その瞬間のノリで決められそうで、怖いんですけど。

 牧さんという記者は、男かな、女かな? 若いのかな、年寄りかな。惚れそうよ。

週刊朝日  2017年2月3日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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