最初に陛下は、「皇后を心配して、譲位を訴えているように取られるのは困る」と説明なさいました。これは、7月13日のNHKの報道を受けたのち、私がテレビの取材に対して、「ご意向の背景として皇后さまのご体調が悪いのではないか」と語ったことを指しているのだと感じました。私が取材を受ける機会が多いので、方向性を伝えてくださったのでしょう。
譲位についてはまず、「ずいぶん前から考えていた」、そして「僕のときだけの問題ではなく、将来も含めた制度にしてほしい」とおっしゃいました。
「長い歴史を振り返れば、天皇が譲位した例は何度もあった。僕がいま、そういうことを言っても、びっくりするような話ではないんだ」
大正天皇の例を挙げてこうもおっしゃいました。
「大正天皇をお守りしようとする人と、摂政の昭和天皇を支えようとする人とで国が二分した。摂政という制度には賛成しない」
陛下のお考えを、果たして外に伝えていいものか、悩みました。一番困るのは、陛下が明石を通じてお考えを国民に伝えていると思われることです。
私は陛下のお言葉を官邸に伝えたいと、麻生太郎副総理を通じて杉田和博官房副長官にお会いしました。陛下がお気持ちを表明する直前の8月6日のことです。杉田さんとはずいぶんお話ししましたが、
「特措法によるご退位に漕ぎつけるのが精いっぱいです」
そう繰り返すだけでした。最初から官邸の方向は決まっていたのです。これからの流れが、陛下のお気持ちにどれほど沿ったものになるのか、わかりません。しかし、国民には陛下のご真意を理解してほしい。そうした思いで、私はお話をするのです。
※シンは王ヘンに「深」のつくり。環境依存文字のため、カタカナで表記。
※週刊朝日 2017年1月6-13日号