
「役者ほど、忙しい時期と暇な時期の落差の激しい仕事もそうはないかもしれないね」と言って苦笑いした。ここ数年は、忙しさのピークを迎えている。でも、芝居に取り組むときのモチベーションは、10代の頃からまったく変わっていないと、遠藤憲一はいう。
「初めて演劇に出会ったとき、“人間を作るって、なんて面白いんだろう!”と思った。それまで、勉強なんかからっきしで、本も読まなかったのが、読書に音楽に映画鑑賞にと、創作につながるあらゆることに興味を持つようになったんです。で、19のときだったかな。マーロン・ブランドの芝居から、役の“心”さえ掴めれば、あとは素っ気なくていいんだと悟って。時代劇に出られるようになっても、あえて、メリハリをつけない芝居を心がけてましたね。監督からは、よく『メリハリつけろ!』って怒られたけど(苦笑)」
表現の探求だけで、20代の日々が過ぎていった。4畳半のアパートに29歳まで住んでいたけれど、仕事に対する不安や不満は一切なかった。
「もともと、芝居以外に欲がない。金持ちになりたいとか、有名になりたいとか、一度も思ったことはないですね。物欲もないから、今もウチはお小遣い制です(笑)。仕事の喜びっていうのも、できあがった作品を見て、自分自身が、“行けるところまで行けたな”って思えたときか、一作を面白いと思えたときかのどちらかしかない。芸能人でいたいわけじゃないから、“バラエティーでやっていくしかない”って言われたら辞めると思う。人間を作ることにだけ興味があるから、小説の才能があれば小説家になっていたかもしれないけど、才能がなかった(苦笑)」