レイ・ブライアント・プレイズ
レイ・ブライアント・プレイズ

 本コーナーは、「ジャズと良い音の関係」と題して、主にサウンドの面からジャズを切っていこうという企画である。

 ジャズは良い音で聴くに限る。なぜならジャズとは、良い音で楽器を鳴らす名人たちの音楽だからだ。しかし問題は、「何をもって良い音とするか」である。いろいろあるのですよ、良い音と一口にいっても。

 まだわたしがオーディオマニアでなかった1995年頃、なにげなく購入した一枚のCD。東芝EMIが出していた「ジャズ名盤物語」シリーズの『レイ・ブライアント・プレイズ』。これが初めて購入した“20ビット/88.2kHz”マスタリングのいわゆる「高音質CD」というやつだった。

 ガサガサ、ザワザワと擦れるオリヴァー・ジャクソンのブラシに乗って、ゴスペル調のメロディ「デロネェのジレンマ」が始まる。タップリしたベースラインがずんずんずんと腰を刺激し、ガーン!とピアノの低音弦を叩くハンマーの快感。

 続く二曲目「ブルー・モンク」は、チーンチーキ、チーンチーキの4ビート。シンバル連打が心地良い。ブルースフィーリング溢れるピアノソロの合間に、スネアドラムが乾いた音で「サカタッ!」と素早く合いの手を入れるのだ。「サカタタッタター!」このヌケの良さはどうだい!

 ジャズピアノの気品とダイナミックさを兼ね備えた、すばらしい録音だ。おお、これが20ビットの威力なのか!そうなのか!?わたしはこの一枚を聴いて、一発で20ビット信者となってしまった。

 当時のオーディオシステムは、高校時代から使っていたコンポに、近所の電気店で買った3万円ほどのCDプレーヤーを繋いだお粗末なものだったが、どういうわけかこのCDだけはすんごく良い音で鳴ったのだ。

 そして、この『レイ・ブライアント・プレイズ』をかけまくり、来るお客、来るお客に「20ビットはエエよ~」と吹聴してまわった(すみません、自営業なもんで)。

 こうなると、当然他の20ビットCDも欲しくなってくる。同じ「ジャズ名盤物語」シリーズはもちろんのこと、20ビットでは飽き足らず、他社から出ている24ビットCDも次から次へと買い漁ったものだ。

 しかーし!『レイ・ブライアント・プレイズ』のようなサウンドを求めて買ったこれら高音質CDは、ことごとく期待はずれに終わった。そう、『~プレイズ』の音が素晴らしかったのは、20ビットのせいだけでなく、元々の録音が良かったことと、何より演奏が良いのが効いていたのだ。サカタタッタター!

 よくよく考えてみれば、20ビットだからって、どれもこれも『レイ・ブライアント・プレイズ』と同じようなゴリゴリの音質になったら、それはそれで困るわけで、いろんなサウンドで録音されたレコードが、それぞれの個性を保ちながら鮮度の高い再生音になることが理想なわけです。

 この20ビット体験から、もう十数年経つわけだが、あのときのサウンドは今でも鮮烈に覚えている。そして、同時に「やっぱりジャズはエエ音で聴かなアカンみたいやなあ」と思い始めるきっかけとなった事件でもあった。

 次回は、同じ音源でも、マスタリングの違いによって感動したりしなかったりする例など、ジャズと良い音の関係を、さらに深く、マニアックに掘り下げていく予定です。

【収録曲一覧】
1. デロネェのジレンマ
2. ブルー・モンク
3. ミスティ
4. スニーキング・アラウンド
5. ナウズ・ザ・タイム
6. ホイートレイ・ホール
7. ドゥードゥリン
8. ア・ハンドレッド・ドリームス・フロム・ナウ
9. バグス・グルーヴ
10. ウォーキン
11. A列車で行こう
12. ウィスパー・ノット

レイ・ブライアント:Ray Bryant(p)(allmusic.comへリンクします)
トミー・ブライアント:Tommy Bryant(b)
オリヴァー・ジャクソン:Oliver Jackson(ds)