漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、松嶋菜々子を主演に広告業界を描いたドラマ「営業部長 吉良奈津子」(フジテレビ系 木曜22:00~)について批評する。
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「半沢直樹」「ドクターX~外科医・大門未知子~」など、主人公の名前付きタイトルは、その職業にフォーカスしたドラマが多い。
吉良奈津子(松嶋菜々子)の勤務先は広告代理店だ。
40歳手前で結婚し、出産。3年ぶりに職場復帰したら、バリバリのクリエイティブディレクターから、頭下げまくりの営業職へ異動することに。ここで営業の苦労が描かれるかと思いきや、ベビーシッター(伊藤歩)が、「私、ご主人(原田泰造)を愛してます」って不倫話ですよ。
これって「半沢」で、銀行組織のバトルを見てたら、急に嫁(上戸彩)が「斎藤工と浮気してたの」と、「昼顔」展開に持ち込まれたような「それじゃない」感。
しかも、夫が泰造よ。ベビーシッターとホテルで危険なムードになっても、こっちの耳にこだまするのは「曲がったことが大嫌い~、はーらーだたいぞうです!」。ほぼほぼコントだから。せめてディレクター役の松田龍平が夫だったら、見てる方のテンションも上がるけど、泰造の不倫話が出てくるたびに、お茶の間の温度は冷えこむばかり。
奈津子に対しては、「単なる40過ぎの子持ち。枯れたお飾り」と、松嶋菜々子にそんなこと言っちゃっていいのかスタッフー! と、無駄にドキドキする場面なのに、「MBY」が気になって、それどこじゃない。「ここにいるのは会社にいらない人間ばかり。営業開発部はゴミ箱なんだぁーッ! ハハハハハッ」と、高笑いするDAIGOを、今すぐゴミ箱にゴーしたくなるいたたまれなさよ。
松嶋菜々子、広告業界、旬の俳優・松田龍平。いかにもかつてのフジテレビ的布陣だったのに、何かが違うこのドラマ。まさに今のフジ的な「かゆい所に手が届かない」感満点なのだ。
※週刊朝日 2016年9月30日号