人気アイテムの音質・内容ともに完全版登場
Complete Street Scenes (Cool Jazz)
年季の入ったマイルス者であれば、このジャケットをみて思わず「なっつかしいいいーなーー」というフレーズを口にされるのではないだろうか。そう、あの「LFYE」の略記で短期間ながらも一時代を築いた老舗レーベルから出ていた『ストリート・シーンズ』のジャケットではあります。しかしよーくご覧いただきたい。小さく「Complete」の文字がみえるのではないでしょうか。そうなのです、この2枚組はあの『ストリート・シーンズ』に不完全状態で収録されていた86年10月26日のライヴを完全収録、なおかつマスター音源というスグレモノなのです。これはうれしい!楽しい!ありがたい!アタマ数秒しか入っていなかった《トーマス》がやっと安心して聴けるようになりました。
収録曲に関して珍しいのは十八番の《ヒューマン・ネイチャー》。これ、ケニー・ギャレット時代になるとマイルス必殺のソロのあと、長い長いサックス・ソロで大団円を迎えるパターンが定着するが、ここではマイルスの次にガース・ウェーバーのギター・ソロが出る。ただし、それだけのこと。幸か不幸かウェーバーのノー・アイデアぶりがこのソロで露呈している。鋭さだけが取り柄と思っていたが、それもない中途半端さ。これならロベン・フォードのほうがずっとよかったのではないでしょうか。
それはそれとして、ちょっと評論家めいたことをいいますと、この時代、マイルスはじめ各メンバーはベストを発揮しているものの、バンドとしては過渡期もしくは停滞期にあった。ギターひとつとってもそうだが、バンドのサウンドというものがイマイチ固まっていない。逆にいえば、マイルスがやろうとしていることと人材が合致していない。最大の弱点はリズムに表れている。つまり軽すぎる。ガース・ウェーバーが中途半端に聞こえるのは、リズムが軽いことによって、取るべきスタンスが取れていないからだろう。このギタリスト、本来であればもっとデキる逸材なのではないか。早い話、ギター(というかリード・ベースというのでしょうか)にフォーリー、ドラムスにリッキー・ウェルマンを得ないかぎり、この問題は解決されなかった。したがって86年のマイルス・バンドに対しては、そういう耳で聴く必要がある。さらにいうと、そのちがいがわかってこそ、おもしろい。たぶんマイルス、イライラしていたのではないか。というのもマイルス自身はとにかく快調なのだ。早くこいこいフォーリーよ、リッキーよと願いながら鋭い音をヒットしていたマイルスの姿を思うと、うーん、なんだか声援を送りたくなる。
【収録曲一覧】
1 One Phone Call / Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Perfect Way
4 Human Nature
5 Wrinkle
6 Tutu
7 Splatch
8 Time After Time
9 Tomaas
10 Full Nelson
11 Carnival Time
12 Burn
13 Maze
14 Portia
(2 cd)
Miles Davis (tp, key) Bob Berg (ss, ts) Garth Webber (elg) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Darryl Jones (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)
1986/10/26 (Belgrade)