「僕も芝居をやりながら、世代交代の波を感じたことは何度もあります。たとえば、テレビでずっと主役をやっていて、あるとき、『“捕物帳”をやらないか』という話が来た。捕物帳といえば杉(良太郎)さんの人気シリーズで、そうか主役が代わるのかと思って、『やるよ』と返事をした。でも、台本を見たら僕は主役じゃなかった(笑)。撮影でも、主役の滝田(栄)さんと話をするシーンで、遠くからキャメラが近づいてきて、それまでなら僕のところで止まっていたのが、そのままスーッと前を通り過ぎて、滝田さんのところで止まった。『ああ、そういうものなんだなぁ』と。諦めるのも上手なんです(笑)」
1987年に平さんは、蜷川さん演出の「NINAGAWAマクベス」と「王女メディア」のイギリス公演の出演を断った。当時、平さんは肺がんを患っていたが、そのことは蜷川さんに伝えなかった。二人は、10年間音信不通になったけれど、平さんは「そういうものか」と思っていた。傷つきも怒りもしなかった。
「諦めるのがうまい、というよりは、何でも受け入れる性格なのかもしれないですね。それは、もしかしたら戦争で大変な時期に少年時代を過ごしたことが影響しているのかな」
舞台の面白さについても、「演じたそばから消えていく。その儚さにあるんじゃないかと思います」と話す。だから、「“今度はもうちょっとうまくやろう”と、次を求める気持ちが強くなる」のだとか。82歳の“芝居欲”は、まだまだ止まらない。
※週刊朝日 2016年8月26日号