ザバッ。劇場に、勢いよく水が飛び散る音が響いた。昨年、蜷川幸雄さん演出の「ハムレット」で、ハムレットの叔父・クローディアスを演じる平幹二朗さんが、井戸の水を頭からかぶるシーンがあった。聞けば、平さん自ら祈りのシーンで水をかぶるというアイデアを出したのだという。
「『ハムレット』で主役を演じていた頃は、クローディアスという役にあまり魅力を感じたことがなかった(苦笑)。でも、せっかく役をいただいたからには、自分なりにキャラクターを膨らませられないかと」
当時、平さんは81歳。舞台が上演されたのは1月の寒い時期だった。
「僕はこれといった趣味もないし、少し長い休暇をもらっても、次の台本でも読んでいれば落ち着くものの、何もすることがないと、『こんなことしてていいのかな』と不安になる。せっかくの休みも心から満喫できない、可哀想なたちなんです(笑)。芝居に対してしか好奇心を持てないぶん、役が来たら、何か面白い部分を見つけようと躍起になる。芝居の苦労は嫌いじゃないのでね」
「精霊の守り人」(NHK)や「沈まぬ太陽」(WOWOW)とドラマでの活躍も目立つ平さんが、9月からは舞台「クレシダ」に出演する。1630年代のロンドンを舞台に、かつての名優が若手俳優にレッスンをつける。テーマは“世代交代”。