Live In Japan Deluxe Edition / John Coltrane (Impulse)

 1965年に来日したジャズ・ミュージシャン(グループ)は前年の来日ラッシュの反動か、なんと4分の1の10人(グループ)に激減し、ライヴ作も3年続けて来日したジョージ・ルイス(クラリネット)の2作しかない。このあとも1970年までは概ね10人(グループ)余りで推移した。右肩上がりだった国の経済力を思えば不可解だが、またの課題とする。1966年には13人(グループ)が来日、モダン・ジャズ・クァルテット(MJQ)、ジョン・コルトレーン(テナー・サックス他)、キャノンボール・アダレイ(アルト・サックス)がライヴ作を残した。まずまずの内容だが入手の難しいMJQ作は見送り、コルトレーン作とアダレイ作を紹介していく。本作はコルトレーンの生誕85周年と来日45周年を記念して先ごろ発売された。収録曲は1991年発売の米CD4枚組(73年と77年に国内発売されたLP3枚組2作の演奏を収録)と同じで、記者会見などを収めた特典CDが追加されている。

 コルトレーンが羽田に降り立ったのは7月8日、ビートルズは6月29日だった。後者は国を揺るがす大事件で、筆者が通っていた兵庫の高校では上京禁止令が出されたほどだ。幸か不幸か、コルトレーンのときにそれはなかった。ともあれ、1960年代にポップス界とジャズ界を席巻した両者が相次いで来日したというのは今では奇跡にも思える話である。一行はコルトレーン、ファラオ・サンダース(テナー・サックス他)、アリス・コルトレーン(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)、ラシッド・アリ(ドラムス)という面々で、9日の東京プリンス・ホテルでの記者会見と初演奏を皮切りに東京、東京、大阪、広島、長崎、福岡、京都と大阪、神戸、東京、東京、大阪、静岡、東京、愛知、東京と、15日間休みなしの強行日程をこなす。この顔ぶれによるアルバムはまだ発表されていなかった。初めて生で見聞する我がファンは先鋭化していたコルトレーンを聴くことになったのだ。

 本作では11日と22日の東京公演の模様が、それぞれ2枚に収められている。どちらも2時間3本(曲)勝負で、前者の《クレッセント》と後者の《マイ・フェイヴァリット・シングス》は1時間近くある。AM放送音源とあってモノラル収録だが、マッシヴな音像で疾風怒濤の音楽が引き立つ。10年ほど聴いていなかったが、たちまち引きずり込まれた。冬眠から呼び起された感じだ。その経験はないが。下地はある。十代の終わりに感染したコルトレーン症候群が二十代の初めまで猛威を振るったのだ。治ったはずだったのだが。ともあれ、2時間2セットを一気に聴いた。というか、強力な吸引力にあらがえなかったというのが正解だろう。これほど凄まじいコルトレーンがあっただろうか。清冽に天空の調べを奏したかと思ったら、一転して地獄の釜の底に突進、マグマの滾る中を一心不乱にのたうちまわる。当方は総身に鳥肌が立ち、口あんぐり、涎と鼻水を垂れ流すばかりだ。

 凡庸な演奏なら15日連続で公演を続けることはできるだろう。しかし、これほど凄絶な演奏を夜毎続けていたとあっては想像を絶する。まさに命を削る所業で人間業ではない。強大な何かに突き動かされている。ブレーキが利かない爆走機関車が停止するのは壊れたときだ。それは来日から1年で訪れる。コルトレーンが凄すぎてサイドマンについて語る必要はないと思っていたが印象が変わった。コンサートだから改まったのか、いつもなら「ファラオ!」と割り込むサンダースが行儀がよく印象に乏しい。歓迎すべきことだが。物足りなく思っていたアリスとアリがどうして大したものでベストの人選に思えてきた。さて、前述したような重篤な結果に陥りかねないから、とくに晩年のコルトレーン作には手を出しづらい。なかでも超重量級の本作は最たるものだ。それで薦めるのもなんだが、数年に一度くらいは苦行?に挑み、表現の極北に思いをめぐらすのもいいのではないか。

【収録曲一覧】
[Disc 1] 1. Afro Blue 2. Peace On Earth
[Disc 2] 1. Crescent
[Disc 3] 1. Peace On Earth 2. Leo
[Disc 4] 1. My Favorite Things
[Bonus Disc] 1. 共同記者会見 2. 3大学の学生によるインタヴュー 3. プライヴェート・インタヴュー

John Coltrane (ss, as, ts, per), Pharoah Sanders (as, ts, bcl, per), Alice Coltrane (p), Jimmy Garrison (b), Rashied Ali (ds)

[Disc 1 & 2] Recorded At Sankei Hall, Tokyo, July 11, 1966
[Disc 3 & 4] Recorded At Kosei Nenkin Hall, Tokyo, July 22, 1966
[Bonus Disc] Recorded At Tokyo Prince Hotel, Tokyo, July 9, 1966

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