
緑のインクで手紙を書いたのは、たしか梓みちよだったが、オーディオマニアは緑のインクでCDの周りを塗る。たったこれだけで音質が変化するからだ。もっとすごい人は、塗るだけでは飽き足らず、カッターナイフでCDに切り傷をつけたり、グラインダーを使ってCDの縁を削ったりもする。おかげで、当店のCDは、どれもこれも緑に塗られて傷だらけ。とても中古屋へ売りに出せるような代物ではない。よい子の読者の皆さんは、決してそういう危険なマネはしないように。
あるオーディオメーカーの人に教えてもらった。CDの信号を読み取るレーザー光は赤色なので、赤の補色である緑色のインクでディスクの周りを塗りつぶすと、CDプレーヤーの読み取り精度があがり、音質が良くなるという理屈なんだそうだ。
それがホントかウソかは定かでないが、緑色の“三菱ポスカ”で縁を塗りつぶすと、たしかに音が変化するのだ。低音が安定し、ポール・チェンバースのベースの音程もしっかりしてくる。
「このCDを緑で塗ったら、どんな音が聞こえてくるのだろう?」一度味をしめたら、もう止まらない。次々と手持ちのCDは緑色に染まっていった。
それとは別に、CDの中心部分にカッターナイフで傷をつけてやると音が変化するという技にも挑戦した。CDは、中心部分でディスクを挟んで回転する仕組みだから、挟むところに傷をつけ、摩擦抵抗を大きくしてやれば、回転が安定し、しっかり信号を読み取れるはず、というのがその根拠である。
“三菱ポスカ”に引けをとらない、これまたずいぶん怪しいテクニックではあるが、試してみると、気のせいではない、やはりこれも音が変化するのだ。
というわけで、またまた手持ちのCDがザクザクと切り刻まれていった。
そうこうしていると、世の中には好奇心旺盛な人がいるもので、「もし赤色の“三菱ポスカ”で縁を塗りつぶしたら、どんなことになるんだろう」と、ある方が実験を買って出てくれた。CDの縁に、緑色のポスカを塗ると音が変化するのは確認済み。それをキレイに洗い流すと、音は塗る前の状態に戻る。これも確認した。
いよいよ、レーザー光線と同じ色である赤色ポスカで塗るとどうか?信号が乱れて、さぞかし酷い音になるんだろう?と、思ったら、意外にも緑で塗ったときと同じような音がしたそうだ。念のために、黒のポスカでも試してみたら、これも同じような傾向の音だったという。
これはいったい、どういうことなんだろう???
タネをあかそう。音が変化したのは、ポスカや傷の摩擦によって信号を読み取る精度があがったのではなく、ディスクの“鳴き”すなわち物性が変化したせいなのだ。
CDは、高速回転しながら信号を読み出すのだが、その姿はまるでシンバルが叩かれて震えてるようにも見える。このシンバルに、たとえばある程度の質量のある塗料を塗布したら?シンバルじたいを削ったりして傷をつけたら?音が変化することは容易に想像がつくだろう。
そういうわけで、読み取り精度が高いとされる特殊素材CDなんかも、ホントに読み取りエラーが減って音質が変化しているのか、特殊素材の固有音が乗って変化したのではないのかと、わたしは一定の疑問をもって見ているわけだ。それらの特殊素材で音質が変化することは確実である。しかし、それが本質的な向上かどうかの判定は、ひじょうにむつかしいものである。
輸入盤と国内盤との音質の違いも、よく話題になることがあるけれど、マスタリングの違いだけでなく、貼り付けたレーベルの質量や、プラスチック盤の材質、丁寧な仕上がりかどうかによっても、音質はさまざまに変化するから、一概に輸入盤が良い、国内盤が良いとも言えない。注意されたし。
※本文中で紹介したCDへの処置は、危険ですので決して真似しないでください
【収録曲一覧】
1. あなたと夜と音楽と
2. マイ・ハート・ストゥッド・スティル
3. グリーン・ドルフィン・ストリート
4. ハウ・アム・アイ・トゥ・ノウ?
5. ウディン・ユー(テイク1)
6. ウディン・ユー(テイク2)
7. ルース・ブルース (ステレオ)