ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏は、アマゾンが始めると言われている新サービスの行方を占う。

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「キンドル」という電子書籍サービス・端末で出版業界に電子書籍ブームを巻き起こしたアマゾンがまた新たなサービスで攻勢に出ようとしている。同社の日本支社・アマゾンジャパンが月額固定料金で登録されている電子書籍が“読み放題”になるサービス「キンドル・アンリミテッド」を日本で8月にも開始すると、6月27日、業界紙「文化通信」が伝えたのだ。

 アマゾンジャパン側は公式の発表をしていないが、同紙によれば複数の出版社への取材で明らかになったという。アマゾンは米国で2014年7月から同様のサービスを開始しており、現在は100万冊を超える電子書籍が月額9ドル99セント(約1千円)で読み放題。日本では利用者は月額980円を払うと、サービスに参加している出版社が提供するキンドル版の電子書籍や雑誌、コミックスなどが読み放題となり、5万5千冊程度のラインアップで開始するとのことだ。

 こうした月額980円の読み放題サービスは、毎月2~3冊以上書籍を購入する本好きにとって、価格的なメリットが大きい。その一方で、出版社や著者にとっては本から得られる収入が減ると懸念を示す声も上がる。本サービス提供開始にあたり、アマゾン側は出版社に対して、単体のキンドル版と同じ内容での提供を求めた。その代わり、収益の半額を電子書籍の利用量に応じて出版社に支払うという。ざっくり計算すると、このサービスに100万人が登録した場合、アマゾンの収入は毎月9億8千万円になる。その半額を、登録する全書籍の「読まれた回数」に応じて分配するということだ。

 
 この分配方法に大きなポイントがある。半額にあたる4億9千万円をサービス開始時の5万5千冊で割ると、出版社が1冊あたり毎月得られる収入は9千円弱。実際にこうしたサービスで読まれる本はごく一部のベストセラーやビジネス書、自己啓発本などが中心で、ほとんどの著者や出版社は月々数百~数千円といった微々たる収益しか得られない。普通に書籍を発売するか、キンドルで単体販売したほうが収益率は間違いなく高くなる。

 月額固定料金を支払うことで、ユーザーが登録されたコンテンツを楽しめるという意味では音楽の「聴き放題」サービスが先行しているが、音楽は音源を聴いて興味を持ったリスナーを「ライブ」に来させて回収することができる。だが、書籍の場合、「ライブ」に相当するものがないため、書籍の販売で得られる収益構造を守らなければ、中長期的に見てジリ貧になっていくだろう。

 キンドル・アンリミテッドは日本の出版業界にとって、大きな黒船となる可能性が高い。報道によると、アマゾンは出版社の参加を促すため、サービス初年度は、単品販売と同額を出版社に支払う特別条件を提示しているという。目先の金欲しさにこれに飛びつくのが果たして正しいのか、大手出版社は難しいかじ取りを迫られている。

週刊朝日  2016年7月15日号