でん、と台に鎮座する103キロのマグロ。175センチの長包丁を手にした職人がスッと身をさばくと、わぁーと社員が歓声をあげた。
日清食品ホールディングス(HD)が6月17日、東京・新宿の本社の社員食堂「カブテリア」でマグロの解体ショーを開いた。同HDの若き専務、安藤徳隆氏(39)が食堂でショーを囲む社員に、こう呼びかけた。
「まずは、わが社の株価を意識してください。そして自分の業務が、どう株価に貢献できるのかを考えて」
3月末にオープンした食堂は、株価連動型のユニークなしかけだ。同社の5月末の終値が4月の平均株価を上回り、「ご褒美」にショーが催された。通常メニューに加え、解体したての赤身や大トロの刺し身が並び、社員は「おいしい!」。
一方で、株価が下落すると、「お目玉デー」として質素なメニューの日が設けられる。4月末の終値は3月の平均株価を下回り、5月に2日間実施された。
おでん、揚げパン、冷凍ミカン、牛乳など、昭和の給食を再現。オジサマ執行役員も割烹着姿となり、「株価下落の責任を取って」社員の食事を配膳した。
「計画の発表当初はさほど関心がありませんでした。ただ、質素な食事や豪華メニューを出されると、漠然ととらえていた株価を意識するようになりました」(50代事務職男性)
社員の評判も上々な企画をしかけたのは、冒頭の安藤徳隆氏。創業者・安藤百福氏の孫だ。百福氏は自宅裏ガレージで1958年、世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を発明した。創業者精神を忘れぬようにと、カブテリアの内装はガレージ風だ。
祖父の発想を受け継いだのか、徳隆氏は横浜の「カップヌードルミュージアム」の企画や斬新なCMの提案でも知られる。日経ビジネス誌の「次代を創る100人」にも選ばれた。
今回もマグロの仕入れ値40万円強で、取材が殺到したから、下手な広告よりも費用対効果は高いかも。
徳隆氏は6月28日の株主総会でHDの副社長に就く。好調な業績を支える立役者の一人として、株主から熱い視線を浴びそうだ。(本誌・永井貴子、松岡かすみ、太田サトル、吉崎洋夫)
※週刊朝日 2016年7月1日号